#ネタバレ 映画「アマルフィ 女神の報酬」
「アマルフィ 女神の報酬」
2009年作品
消えるものも痕跡を残す
2009/9/3 17:22 by さくらんぼ
( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )
終わり近くの砂浜で、娘を救ってもらった母が黒田に、「日本に戻ってきたら連絡をください。お礼がしたいから」と言って、連絡先を教えようとします。でも黒田は、「日本には戻らないんです」と言いました。その直後、目を放した隙に消えてしまった黒田、さよならも言わずに。
でも、消えるものも痕跡を残すのです。
振られましたが、母には恋が芽生えていましたね。でも「日本の007」にプレイボーイ・ライクな刹那的恋愛は似合わないのかもしれません。
美しいイタリアを、目が見えなくなるかも知れぬ我が子の記憶に焼き付けてやりたい、と願う母を初め、この映画は誘拐被害者の哀しみ、ビデオ加工の証拠、大臣もみ消しの被害者など、痕跡についてのモチーフが散りばめられていました。もちろん、ラスト駄目押しの一発芸、片方手袋のシーンも。
ある意味この映画は「嫌われ松子の一生」と似た事を描いていたのかもしれません。人生は他人の想い出になって完結する、のですから。
テレビなどでよく目にするヨーロッパの街並み。でも大画面で見ると新鮮。遠くなければ一度行ってみたいと、ちょっぴり思いました。★★★★
追記
2009/9/4 8:02 by さくらんぼ
>でも、消えるものも痕跡を残すのです。
書き忘れるところでしたが、遺跡の都であり、古い町並みが美しいローマが舞台なのも、主題に相応しい場所だからでしょう。
追記Ⅱ ( レコードという遺跡 )
2016/1/16 10:58 by さくらんぼ
私は黒く美しいものとして、“少女の黒髪とLPレコード”を挙げています。
先日、中古レコード店でLPを買おうとしたら、店員さんから「検盤をして下さい」と言われました。新品のLP全盛期を過ごしてきた者にとっては、検盤だけでも音の良し悪しが分かる気がします。少女の黒髪とおじさんのそれが判別できるように。
一枚について20~30秒もにらめば十分判断できました。新品同様で、音溝の痛みも少なく、穴周りのヒゲ(ターンテーブルに乱暴に置く者が作るスリキズ)も皆無でした。検盤時のLPの取り扱い方でも、キャリアを見抜かれてしまうので、怖い瞬間でもあります。
ところで、この時に改めて思ったのですが、ある意味“LPレコードとは彫刻”だったのではないでしょうか。あれは音楽を刻んだ彫刻だったのです。
所有者はきれいで大きなジャケットを楽しみ、ライナーノーツを楽しみ、彫刻をクリーニングしながら愛で、そして最後は針を置くことで、耳で音楽として愛でるのです。また共感覚者の一部は、音を見ることで文字通り彫刻鑑賞をするのです。
世に「凍れる音楽」という言葉もありますが、CDとLPの決定的な違いは、LPでは音楽の彫刻が目の前に実在していることなのです。
追記
昔、“免税電蓄”とも言われた物品税免除の安価な電蓄がありました。今では消費税が課税されますが、性能的には似たような製品があります。
誤解を承知で言うならば、LPレコードの本当の音の良さは免税電蓄では分かりません。それなら、かえってCDの方が音は良いくらいです。安易にブームに乗ってはなりません。
それどころか、かつての免税電蓄では、LPを何回か演奏しただけで、繊細な音溝を痛めてしまうものもありました(現在の製品は知りません)。
友人に貸した新品のLPが、一週間後にノイズ入りになって帰ってきた苦い思い出を忘れられません。あのときの友人は何も悪くありません。免税電蓄も故障してはいません。友人はオーディオマニアでは無いので、自分が何をしているのかを知らなかっただけなのです。
でも、いったん傷ついた彫刻は、永遠に復活しないのです。
( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。
更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)
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