見出し画像

#ネタバレ 映画「きっと ここが帰る場所」

「きっと ここが帰る場所」
2011年作品
ロックは反抗の音楽
2012/8/3 13:21 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

ロックは反抗(これも苦悩のひとつ)の音楽とか申します。主人公のシャイアンは父に反抗したエネルギーでロッカーになったのでしょう。それが、たまたま成功したために、そのままロッカー(苦悩の人)の人生を突っ走ってしまいました。

そして、ふと、気がつけばもう中年です。ロックを始めた時はあんなに若かったのに、今は歳をとったことにグチをたれるオジサンになっていました。このグチは「僕の前半生は幸せではなかった」という哀しい告白です。染められた人生ですから当然です。

ここで「これはビジネスですし、音楽仲間も食わせなきゃなりませんから」などと悟りを開き、さらにロック街道をまい進するアーティストがいても、それは、ひとつの見識ですが、シャイアンは「何かが変だ」との気持ちに素直に従って、一切活動を停止してしまいました。再び流れに反抗したのです。

これも「厄年」でしょうか。

しかし、そうは言ってもまだロッカー扮装のままです。気持ちは完全にはふっ切れていないのですね。あの、いつも転がしているキャリーバッグは、心にはまだ重石があることの記号なのでしょう。キャリーバッグの話しはキャリーバッグの考案者に、重石のことは重石の原因となった人に話すと良いのですが。

なぜ、ふっき切れていないのか。

それは、シャイアン自身が父への反抗心からロッカーになったことに気づいていないからでしょう。でも、とうとう気づく時が来たのですね。

シャイアンの父が亡くなるのです。父とロックと自分自身に向き合う時が来たのです。表面的には気づいていなくても深層心理では人生の節目になるべき重大な出来事であることを知っています。それが段々とシャイアンにも分かってきた。シャイアンはそれに導かれるかように、父の心の軌跡をたどる旅に出たのでした。

私は他の作品のレビューで時々「就職前の若者の自分探し」に対して「リタイア後の中年になってからの第二の自分探し」にふれていますが、この映画「きっとここが帰る場所」はまさに後者を描いた作品ではなかったでしょうか。

30年間も父から逃げていたシャイアンが、ここへ来て初めて父の内面と向き合うことが出来たのです。それで、段々と癒やされていきました。苦悩の真の原因と対峙し、それを知ることは開放(癒し)へとつながりますから。

映画の終わりに出てきたナチSS隊長も、実は罪悪感に苦しんで生きてきたのですね。でも、それは認めたくはなかった。自己否定ですから。でも今回シャイアンと出会い、その原因と真摯に対峙し、さらに屈辱的な裸をさらした。あれで少しは癒されるのでしょうか。

映画のラストではロッカーの扮装を脱ぎ捨ててさっぱりしたシャイアンも帰ってきました。満面の笑みを浮かべて。やっと父の呪縛からか解放されて心身ともに自由になった記号です。本当の自分が誕生したのでした。これは曇天から快晴の青空になったような気分でしょう。

たとえ逝く前の一年間だけでも良いのです。ドッグ・イヤーではないですが、それは、それまでの何年分にも匹敵する幸せでしょう。シャイアンの様に本当の自分を見つけたいものです。

映像がとても美しく、ショーン・ペンさんが圧倒的に良かった。

ロッカーの扮装をしていても、旅先で出会った人と会話するセリフは、人生酸いも甘いもかみ分けた大人の分別に満ちていました。そんな、矛盾して崩壊寸前の彼だから「何かが変だ」と人生に疑問符を突きつけたのですね。また、セリフを言わずに、たたずんでいるだけでも、それがにじみ出てくるんです。そんな無言の演技も良かった。

★★★★★

追記 ( 韓国とハワイ )
2019/1/7 9:46 by さくらんぼ

私は韓国とハワイに行ったことがあります。

そうしたら、韓国には郷愁を、ハワイには夢を感じました。

言いかえれば韓国には過去を、ハワイには未来を感じたのです。

なぜだか考えてみました。

私は生まれも育ちも日本人で、帰化した先祖など知りませんが、もしかしたら、遠い祖先は渡来人だったかもしれないと思い至ったのです。

さらに私は、琵琶湖に不思議な郷愁も感じています。特別な思い出など無いのに。

後で知って驚きましたが、司馬遼太郎さんの紀行文集「街道をゆく」の「湖西のみち」には、朝鮮半島からの渡来人たちが、琵琶湖を通って南下した様子が書かれていました。あちこちの琵琶湖畔に遺跡があるのです。

その渡来人たちの多くは、日本に永住することを選んだのでしょう。

そして、さらに朝日の昇る太平洋へ船出していった友を想い、ハワイの方向を眺めていたのだと思います。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?