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#ネタバレ 映画「スリー・ビルボード」

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

2017年作品
黒澤映画へのオマージュか
2018/2/18 22:39 by さくらんぼ

同時期に公開された映画「悪女/AKUJO」と同じく、これも「公務員に怒れる女」のお話しです。ただし、映画「悪女/AKUJO」が冒頭7分の斬新なアクションで魅せるのなら、映画「スリー・ビルボード」は、冒頭数秒、静謐な画面にすでに漂う品格で唸らせます。そして、これは黒澤監督の名作・映画「生きる」へのオマージュの可能性があります。

ストーリーは「病気」以外、大胆に変更されていますが。映画「悪女/AKUJO」の斬新さについていけない私のような方は、こちらの映画「スリー・ビルボード」が楽しめます。 ★★★★☆

追記 ( 黒澤映画へのオマージュか ) 
2018/2/19 9:56 by さくらんぼ

> そして、これは黒澤監督の名作・映画「生きる」へのオマージュの可能性があります。ストーリーは「病気」以外、大胆に変更されていますが。

映画「スリー・ビルボード」の冒頭、朽ち果てた大きな三つの立て看板が映り、バックにアイルランド民謡「夏の名残のばら」が、まるでオペラのように流れます。このシーンだけで映画好きのオールドファンはノックアウトされてしまいます。これは「正座して観るべき作品だ」と。

ところで、この名曲「夏の名残のばら」は、映画「生きる」でおなじみの、(いのち短し 恋せよ乙女)名曲「ゴンドラの唄」のつもりなのでしょう。イメージが似ているので選曲されたように思います。

そして、ヒロインのミルドレッドが次のアクションを起こすとき、ひとり言のように密かに相談していた相手が、履いているウサギのスリッパです。映画「生きる」では、(仕事がつまらないからと)役所を辞めた部下の小田切とよが、今は町工場で「うさぎのおもちゃ」を作っていて、充実した顔で、元上司の市民課長に、「課長さんも何か作ってみたら?」と生きがいについての進言をするシーンがありました。

課長さんは生きがい探しのために、元部下の若い女性である小田切とよにつきまとっていたのですが、これを「浮気」だと家族に勘違いされるのですね。映画「スリー・ビルボード」でも、ヒロインの夫は、娘のような若い女と家を出て行きました。

それから、極めつけは、ブランコのシーン。病気とか、犯人探しとか、重要な会話をする時には、ブランコが出てきます。探せばもっとあるかもしれませんが、映画「生きる」は昔TVで観たことがあるだけですので。

追記Ⅱ ( 映画の雰囲気は ) 
2018/2/19 10:01 by さくらんぼ

映画「プレイス・イン・ザ・ハート」、映画「夜の大走査線」的な雰囲気もあります。

追記 Ⅲ ( 遠くに見えるクリント・イーストウッド ) 
2018/2/19 11:07 by さくらんぼ

ヒロインを見ているとクリント・イーストウッドに見えてきます。顔かたちではなく、お芝居の印象が。そんなところも、この映画の格調を上げている理由の一つでしょう。ちなみに顔かたちは私の知人に似てなくもないので(やさしい人です)、人ごとには思えませんでした。

追記Ⅳ ( 映画「本能寺ホテル」 ) 
2018/2/19 22:43 by さくらんぼ

先日、映画「本能寺ホテル」を観ました。少しネタバレの話をします。

あれは「本能寺の変」の前日にタイムスリップしたヒロインが、本能寺で亡くなるはずの信長を助けようと、歴史を教えるのですが、信長は逃げずにそのまま亡くなり、結局、歴史通りになるお話です。

では、信長はなぜ逃げなかったのか。それは、ヒロインが現代の京都から持ち込んだ観光チラシを見て、「未来の人々は、平和に、豊かに、楽しく暮らしているらしい」と知り、「自分が身を引くことが、夢見た諸国統一に役立つ」と悟ったからです。

もちろん、過去の人間である信長の想像力には限界があり、現代の観光チラシに描かれている事と100%同じではないでしょう。しかしベクトルと言いますか、信長の平和への願いは、概ね現代人と同じはずなのです。その時々の担当者によって、時代の文化によって、若干の違いがあるだけで。

映画「スリー・ビルボード」の主題は、概ねこの話と同じなのでしょう。つまり、「思いは引き継がれる。人や時代を越えて」と言うことでしょう。だから、「警察頼み」→「個人的復讐」→「自警団の発生」みたいなシーンにたどり着いたのでしょう。あの一枚ではなく、「関連のある3枚の立て看板」の意味も、きっとそこにあります。

追記Ⅴ ( 自分でやるか、後進を育てるか ) 
2018/3/4 10:20 by さくらんぼ

映画「生きる」では、癌の市民課長が、最後の数か月を、一人公園を作ることに専念しました。

その、はた目には非常識なほどの苦労もあって、めでたく公園は完成しましたが、その手柄を(死人に口なしとばかりに)、恥知らずにも、葬儀の席で自分の手柄みたいに吹聴する上司たちはいても、結局、その思いは職場には根付きませんでした。翌日になると、又、昔の雰囲気に戻ってしまったのです。役所の空気を考えると、ある意味それも、仕方ない部分もありますが、やるせない印象を残したことも確かです。

でも、映画「スリー・ビルボード」では、そこを書き直しているようです。癌の警察署長は、そこまで熱心には仕事をせず、それどころか、終末期の苦しみを自分や家族に味合わせたくないと、早々と自殺してしまうのですね。

でも彼は、立て看板の費用を密かに前払いしていましたし、一見無能な一人の元部下の特質も見抜いており、「あとは頼む。お前は、本当は仕事ができる奴だ」と遺言状まで残しておいたのです。元部下はこれに発奮しました。

すでに、彼は警察を首になっていたので自警団にしかなれませんが、身を引くにあたって後進を育てようとした警察署長は、市民課長と比べて、別の解を提示したと言っても良いのかもしれません。もちろん、合法的な「延命治療の拒否」ができなかったのか疑問は残りますが。

追記Ⅵ ( 「震災遺構」という立て看板 ) 
2018/3/12 9:35 by さくらんぼ

「スリー・ビルボード」とは「3枚の立て看板」のことです。娘の死を風化させず、犯人を捕らえてもらうために、母はそこへ意見広告を出しました。

ある意味それは「震災遺構」に例えても良いでしょう。

東日本大震災から7年。マスコミからは、「記憶の風化をどう防ぐか」「私たちは忘れない」とか言った声が聞こえてきます。被災された方の心情を考えると、特に被災直後は、震災遺構など見たくないのは当然の事かもしれません。それは耐えがたいことだと思います。でも少し落ち着いた今、「何を残すべきだったのか」の話し合いが、改めて行われても良いのかもしれません。目的は「皆で震災遺構の価値を考えること」。それは、次なる地震への、備えの一つにもなるはずです。


( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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