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#ネタバレ 映画「バルトの楽園」〈がくえん〉

「バルトの楽園」〈がくえん〉
バルトの楽園(がくえん) : ポスター画像 - 映画.com (eiga.com)
2006年作品
静寂からの声が人を突き動かす
2006/7/17 9:33 by 未登録ユーザ さくらんぼ (修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

会津藩士の息子である松江所長は、迫害の悲しみと、故郷の「失意の中にあるお遍路さんを、暖かくもてなす精神」を忘れられませんでした。これらが後に捕虜を人道的に扱う行為に繋がっていきます。

また、所長の使用人である男は、息子をドイツ兵に殺された恨みを忘れられません。

日本に愛娘が住むドイツ兵も、戦場で日本とは戦えませんでした。

彼の娘も、遠くの父を心の支えとして生きていました。

収容所のドイツ兵リーダーは、壁に皇帝のパネルを飾り、皇帝を心の支えとして生きていました。ですから、皇帝がオランダへ亡命したと知った時、彼は失意のあまり自殺を図ります。

他のドイツ兵達はリーダーを心の支えとしていましたが、自殺を図ったと知るや、魂の抜け殻の様になってしまいました。

そんな中でも、恋する二人は、言葉は通じなくても、離れていても心は何時も繋がっていました。

「この音楽は静寂から生まれたのか」というセリフがありました。でも静寂から生まれてきたのは音楽だけではないようです。人は皆自分の心の奥底から生まれてくるものに突き動かされていたのでした。

ところで、使用人の部屋を訪れた所長の妻が、仏壇で祈った後に男をさとす場面がありました。仏壇で祈る事で、男が拘っている息子を呼び出し、三者会談をする形にしたんですね。その上「貴方もわかっているはずです」などと言い、心の良心の部分に耳を傾けるように仕向けるなどは、とても凡人には真似の出来ない技だと感心してしまいました。

私たちが静寂から何を聞き取るかは、その人の持って生まれた資質や人生経験の他に、一般教養も影響力を与えます。一見、実務とは無関係に思える絵画、音楽、文学なども実は無関係ではないようです。真のリーダーになるのはガリ勉だけではだめなのですね。

この映画はなかなか楽しめる佳作になりました。

追記 ( お互いの嗜好は尊重したい ) 
2015/10/1 9:35 by さくらんぼ

昨日の夕食には、何年かぶりに鯨が出ました。

正確にはなんと呼ぶのか知りませんが、「鯨のベーコン」と呼ぶのでしょうか。周囲が赤く、身が白くて、トロリとした脂身と、少し繊維質の部分もあって…私は幼いころから「鯨の脂身」と呼んでいました。

幼いころと同じように、ウスターソースをかけて食べました。

鯨独特の旨みがあって(初めて食べた人は癖と言うかもしれませんが)、懐かしく、一夜明けた今朝になっても、体の中に幸福感が残っています。その、翌朝まで残る幸福感、に驚きました。

今回は、食べられなかったけれど、鯨のステーキ(こげ茶色の身を、幼いころ、おばあちゃん家で、七輪で塩焼きにして、熱々を食べました)も懐かしいです。

鯨にかぎらず、幼いころ馴染んだ料理が食べられないのは、心に喪失感を与えているのかもしれないと、今回、鯨を食べてそう感じたのです。

たとえば母親が亡くなったり、妻がその料理を嫌いだったり、そんなことが料理の変化を生み、家族のメンタルに影響を及ぼすのです。私はカレーライスが嫌いな女性や、味噌汁を好きでない女性も知っています。それなら、自分で作ればよい、と言ってしまえばそれまでですが。

料理に限らず、例えば配偶者の一方が旅行好きなのに、他方が健康なのに旅行嫌いの場合も(病気のせいなら我慢もできましょうが)、メンタルに影響を及ぼすのでしょう。逆に夫婦ともに大の旅行好きで、二人とも正社員でお金にゆとりがあり、子供もいなくて、頻繁に海外旅行をしているご夫婦を知っていますが、本当に幸せそうですからね。

追記Ⅱ ( 映画「レ・ミゼラブル」 ) 
2017/7/5 21:24 by さくらんぼ

>私たちが静寂から何を聞き取るかは、その人の持って生まれた資質や人生経験の他に、一般教養も影響力を与えます。一見、実務とは無関係に思える絵画、音楽、文学なども実は無関係ではないようです。真のリーダーになるのはガリ勉だけではだめなのですね。(本文より)

映画「レ・ミゼラブル」にある、私のレビュー本文「足元にある雑草」に書かれていることは、この映画「バルトの楽園〈がくえん〉」にも当てはまります。

どうぞ「バルトの楽園〈がくえん〉」の「追記Ⅱ」としてもお楽しみください(無いレビューは順次記載します)。

追記Ⅲ ( 皇帝と天皇 ) 
2017/7/6 9:19 by さくらんぼ

>収容所のドイツ兵リーダーは、壁に皇帝のパネルを飾り、皇帝を心の支えとして生きていました。ですから皇帝がオランダへ亡命したと知った時、彼は失意のあまり自殺を図ります。
>他のドイツ兵達はリーダーを心の支えとしていましたが、自殺を図ったと知るや、魂の抜け殻の様になってしまいました。

当時のドイツ皇帝と言えば、日本の天皇陛下のような存在ではないでしょうか。そのお方が不意に他国へ亡命してしまったら、残された国民の失意はどれほど大きいものか。家庭で言えば子どもを残したまま両親が家出してしまうようなものでしょう。映画「誰も知らない」みたいに。ドイツの皇帝制度が終わってしまったのも分かろうというものです。

それに比べると、日本の天皇制が長く続いているのは世界に誇るべきことだと改めて思いますし、「玉音放送」や、映画「終戦のエンペラー」、映画「太陽」で描かれている、終戦当時の凛とした昭和天皇のお姿と、国民を思うお言葉が、あらためて有難く思えるのです。

追記Ⅳ ( スペイン風邪と「世界の記憶」 ) 
2020/3/28 9:32 by さくらんぼ

『 …「ドイツで有名になったのは、収容所長だった松江豊寿の功績です」と森清治・市ドイツ館長(53)。

…中略…

当時、世界中で猛威をふるったスペイン風邪が所内に及ぶと、牛乳やスープ、体温計などを捕虜に与え、消毒にも努めた▼

…中略…

「武士の情け」を重んじ、弱者や敗者の側に立つ姿が浮かぶ▼鳴門市はいま、日独4自治体でユネスコ「世界の記憶」の登録を目指す。戦勝国と敗戦国が恩讐を超え、世界に名乗りをあげるとは、松江所長も予見できなかっただろう。 』

(  2020.3.28 朝日新聞「天声人語」より抜粋  )

追記Ⅴ 2022.11.26 ( お借りした画像は )

キーワード「学園」でご縁がありました。紫の中に、小さく黄色がある。良い組み合わせですね。自然の妙です。日常生活で紫はあまり使いませんが、あらためて良い色だと思いました。無加工です。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)

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