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「川口市動物管理センター」を視察

動物の死体収集業務でのマイクロチップの活用が始まります。

 きっかけは、8月のある日に受けた1件の市民相談でした。
「マイクロチップ装着済の飼い猫が迷子になり、捜索するもなかなか見つからない。万が一、交通事故で最悪の事態となった場合を想定し、ごみ収集センター(朝日環境センター)に該当する猫の死体の回収がないか問い合わせところ、マイクロチップリーダーを置いていないため、番号の確認をすることのないまま処分しているようだ。愛猫のもしもの事態を考えてマイクロチップを装着させたのに、これでは意味がない。」

  ペットも家族の一員としてみなされる現在。飼い主さんの訴えは御尤もです。保健所に収容されていないか照会することはあっても、収集センターにまで問い合わせようという考えにはなかなか至りません。しかし、飼い主さんが危惧するように、公道に交通事故等で亡くなった動物の死骸があった場合、収集業務課が動物の回収に赴き、一定数が溜まるまで死体を保管し、まとめて処分しています。動物の保護というとまずは地域の保健所ですが、ごみ収集の分野にまたがるとは、まったく想定していませんでした。

  早速、関係各課に確認照会したところ、川口市では現在3台のマイクロチップリーダーがあり、市の動物管理センターで2台(予備1台含む)、市保健所で1台が稼働していますが、収集業務関係の部署には配置されていません。動物管理センターや保健所に動物が収容された際には、マイクロチップが装着されていないか必ず確認しますが、死体となり「物体」として収集されてしまうと、飼い主はもう見つける方策が絶たれてしまいます。

  動物愛護団体の方たちが調査した資料によると、埼玉県内63市町村中、動物の死体収集業務でマイクロチップを活用している自治体がわずか2つ。マイクロチップの有無を読み取るという、わずかワンステップが行われていないばかりに、今も愛猫を探し続ける飼い主さんがいるかと思うと、本当につらい気持ちになります。部署間の連携した対応が早急に求められますが、特に、収集業務の現場サイドで導入が難しい感触がありました。しかし、今回、さまざまな方たちから働きかけがあったことにより、部局間の共通認識と理解が進み、収集業務課でも倉庫に一定数の死体が保管された段階で、すべてマイクロチップの確認をしてもらえることになりました。現場サイドには慣れない作業で手間をかけてしまうため、心苦しい面もありますが、それ以上に、飼い主の方々の気持ちが報われ、一歩前進です。

「川口市動物管理センター」を視察

 実はマイクロチップリーダーがどんなものか、チップにはどんな情報があるのかよく知りませんでした。実態を学ぶべく、早速、川口動物管理センターを視察しました。当センターは、平成31年に川口市が中核市に移行する際、埼玉県から一部権限移譲により設置したものです。心無い者による動物の遺棄や置き去りを防ぐため、住所は公表されていません。そのため、「川口市動物管理センター」とネットをかけても詳しい情報はヒットしません。

  建物はプレハブ風な2階建て。周辺には看板も案内板もなく、入口に小さな名称のプレートが掲げられているだけです。最大収容頭数は、成猫28匹、仔猫50匹、犬10頭ですが、収容環境も考慮し、これまで最大数が入ったことはないそうです。

収容動物の返還・譲渡数は?殺処分は?

 令和2年度の犬の収容数は27頭(マイクロチップ装着は9頭)、そのうち飼い主の元に帰れた子は18頭、新しい飼い主へ譲渡されたのは7頭。令和3年になってからは、すでに9頭が収容され(マイクロチップ装着は2頭)、5頭が返還、3頭が譲渡されています。犬の場合は、大半が収容した翌日~3日以内に飼い主へ戻っているそうです。視察した時には、最長で2年近く収容されている柴犬がいました。健康状態も良く、まだ若く愛らしい犬ですが、譲渡活動の際に咬傷事故を起こしてしまったため、気性が落ち着き、人に慣れるよう育成中とのこと。レオン君と名前もつけられており、収容室のホワイトボードには「お手、お座り、待てができるようになった」とのコメントが。毎日散歩もしています。最善の状態で譲渡できるよう、職員さんたちが愛情をこめて面倒をみているのが良く分かりました。こうした職員や、譲渡活動を行うボランティア団体さんの努力により、殺処分はゼロです。

  猫の状況はというと、令和2年度の収容数は61匹(マイクロチップは0匹)、そのうち返還は0、譲渡が33匹。今年度もすでに34匹が収容されており(マイクロチップは1匹)、やはり返還は0,譲渡は14匹。こちらも、譲渡活動のため仮飼育しているボランティア団体さんの努力などにより、令和2年度から殺処分された猫はいないそうです。垂直運動が大好きな猫たち。センター内には、キャットタワーが設置されており、この日も生後3-4か月の仔猫たちが生き生きと遊んでいました。

 それにしてもやはり気になるのは、猫の返還数の低さ・・・まさかゼロとは。マイクロチップ装着もまだまだ普及には程遠い状態です。

マイクロチップにはどんな情報が入っているのか?

 私が視察した日は、マイクロチップが入っている猫が収容されていました。気品あるブリティッシュショートヘア、4歳のメスです。

 市内道路の水たまりに、衰弱した状態でぐったりうずくまっているところ保護されたとのこと。今はこんなにきれいな姿ですが、保護時はノミがひどく、肝臓の疾患もありひどい状態でした。

 マイクロチップリーダーはちょうどスマホくらいの大きさ。


首のあたりにリーダーを当てると15桁の番号が表示されます。

この番号を日本獣医師会が管理している「動物IDデータベースシステム」に入力すると、こんな情報が出てきます。(個人情報部分は黒塗り加工)

 

飼い主の名前、住所、電話番号も登録されているので、センターからも電話や郵便で再三の連絡を試みたものの、電話は通じず、郵便も宛所不明で戻ってくるのだそうです。

来年から義務化されるマイクロチップと、譲渡後の所有権問題について

 2019年6月に成立した改正動物愛護法に基づき、2022年6月からペットショップやブリーダーで販売される犬猫については、マイクロチップの装着が義務化されます。購入後は、飼い主がデータベースにアクセスし、自ら所有者情報を変更する義務が生じます。生体販売の是非については、個人的に好ましいものだとは感じませんが(これまで飼ってきた犬や猫もすべて譲渡会で譲り受けました)、迷子や災害時に行方不明になったことを考えると、飼い主を明らかにしておくための方策が必要です。なお、野良猫を拾ったり、動物愛護団体等から譲り受けた場合には、装着は努力義務とされています。

  今、管理センターに収容されているブリティッシュショートヘアについても、間もなく譲渡活動が始まるでしょう。しかしここでひとつ疑問が。
マイクロチップ未装着の猫は、野良猫=所有者がいない場合もあるでしょう。しかし、このブリティッシュショートヘアはマイクロチップがあり、そこには(現在連絡つかずであっても)所有者がいることが明確です。犬猫はたとえ可愛いペットであっても、法律上は動産として、つまり「モノ」として扱われます。ですから、連絡付かずの飼い主が自主的に所有権放棄でもしない限り、何かの都合で「やっぱり返してくれ」とやってきた場合、新しい飼い主は返還しなければならないのでしょうか?しかもこの猫は、ペットショップで数十万の価値があった子です。新しい飼い主が返還を拒んだら、もしや窃盗扱いになってしまうのでしょうか?そうした事態を避けるために、いったん「落とし物=遺失物」として警察に届け、3か月以内に所有者が現れなかった場合には、拾得者が新たな所有権を得ることになるので、面倒でもそういう手続きを踏んでおいた方が良いのか?考えすぎかもしれませんが、マイクロチップ装着の動物を譲渡する際の所有権問題が気になってしまいました。

 とにかく、1匹でも多くの収容動物が、飼い主の元に帰り、あるいは新たな飼い主にめぐり合い、生涯を幸せに過ごせるよう心から願います。そのための活動や施策の推進に少しでも尽力できるよう引き続きがんばります。

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