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ゴットファーザーと僕

「それで?? 今朝はどんな用件で?」

セバスチャンは僕なのかセニョールなのかどちらか一方に話しかけるでもなく政治家っぽい堂々とした口調で話始めた。

「えーっと。。いや。。実は。。。」

僕自身なぜここに連れてこられたのか、どうしてここにいるのかわからない。が、とにかく自分のお店の前にテーブルをどうしても置きたい僕は自分なりに事情を説明しようと頭の中にあるスペイン語を絞りだそうとしたその時

「この日本人が自分の店の前の路地にテーブルを置きたいそうなんだ。場所は、もう知ってるだろ? どうやら君もこのマサノリのお店には行ったことがあるみたいだからね。」

セバスチャンは自分も路地裏の隠れた日本食デリカテッセンを知ってることを少し誇らしげに、いかにも自分は上客だと言わんばかりだったのが僕を嬉しくさせた。

「そうですか。でもわざわざどうしてそれを? 今までもテーブルを置いてるじゃないか? 許可? うーん許可は事情があって出せないんだ。それはセニョールもご存知と思いますが。。。」

【許可が出せない】というのは以前から市の総務課でも説明を受けていたので知っていた。色々なしがらみと利権が絡み合ってこの問題は複雑で、実際に市が正式な文書のテーブル許可証を街のレストランに発給することを始めたのはこの時から3年後である。

そして、この街の公共スペースにおけるテーブル許可問題は、この日から6年後の2016年に大体的な摘発と改正を繰り返し、街全体を巻き込んだ一騒動になる。時の市長は正に「パンドラの箱を開けた」と揶揄される強行で、街一番のレストランが路上に設置していたテラス席の撤去を敢行し、僕の店前路地のテーブルも5つから1つに減らされてしまった。そこからまた5つまで巻き返すまでの話は後々書こうと思う。

セニョールはいつものように笑いながら僕に変わって事情を説明してくれた。

「そうなんだが、どうも市役所の見廻り組達に撤去を命令されてしまったそうなんだ。ご丁寧に警告書まで残していったらしく。。全く真面目に仕事してるとはいえ、この子にとっちゃ一大事だよ。だから今日は私が一緒にお願いしに来たというわけだ。」

なるほど。とセバスチャンが言ったか言ってないか。思い出せないくらい間髪入れずセバスチャンは僕に聞いた。

「それで?いくつテーブルを置ければいい?」

僕は今まで2つ置いていたのでその通り「2つ」と答えようとした時

「3つ!だな?」

とセニョールが僕を遮った。 

「わかりました。じゃあ3つ。今日から置いてもらっても大丈夫だから。」

「え??3つ??」 

「そう3つ」と大きくうなずくセバスチャン。

となりでセニョールは笑っていた。

「でも。。。警告書は?許可は?」

真面目である。いたって真面目な僕は事態が飲み込めないままセニョールを見つめた。

「あははは No te preocupes 心配いらんよ。警告書は捨ててしまいなさい。もう見廻りのやつらは来ないから。許可? だから今の市役所は許可はださないんだ。でもセバスチャンが許可をくれたからもう心配するな。」

セニョールと僕はセバスチャンにお礼を言って部屋を出た。セバスチャンとセニョールは以前から顔見知りなのか?一体全体どうなってんだ?わからないことばかりだったけれど、この日から僕の店の前には2つじゃなくて3つのテーブルが置けるようになった。 

「セバスチャンってナニモンなんですか?」

中学生のような質問をした僕にセニョールはゆっくりと説明するように答えた。

「彼は市長直属の第一秘書官ってとこだな。だいたいの事はセバスチャンに相談すればなんとかしてくれるはずさ。市長のアドバイザーでもあるからな。いいかい。今まで自分で市役所に通って相談していた君はよく頑張ってるさ。だけどこの街にはこの街なりの見えない絡まりあった糸みたいなのがあるのさ。君の行動ではどうにもならん事がある。外国人の君にはわからないしがらみばかりさ。だから相談する人、付き合う人には注意しなさい。幸いにも私は昔この市の為に働いたことがあってな。知り合いが多いんだよあははっ。だから、君をここまで連れて来れるのさ。市長に会わなければいけない事態になれば会わしてあげるよ。まあだけど、セバスチャンで十分さ。
市長は飾りみたいなもんさ。」

「君は本当に運が良いよ。ゴッドファーザーに出会ったんだからな。これからは心配せずにお店を頑張りなさい! テーブル2つだと私が食べに行ったときに座れなきゃ困るからね。あはっはっは。」

確かに僕は運が良い。今まで2つのテーブルをいつ見つかるかビクビクしながら置いていた。この日いきなり3つ置いていいことになった。この機を境に僕のお店は繁盛店への道を進むと言っても過言ではない。これから起こるまだまだ驚きの出来事もセニョールの助言と手助けで解決することになる。

「私がマサノリのゴッドファーザーさ。だから思いっきり頑張りなさい。」

これからの物語の中でも沢山語られる、セニョールの存在は僕がこの街で生きていく上でかけがえのないものになるのだった。

つづく

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