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真打ち登場 その1 【本当の大家】

メキシコで家を借りるときまたは購入する際に、特に店舗物件で注意しないといけないのはその建物のオーナーについてだといわれている。

大きな建物だと所有者が多数いて、それが家族の名義になっていて家族間の仲が良ければ問題はないのだけれど、泥沼のような関係の場合トラブルに巻き込まれるケースがあるとは聞いていた。また、日本のように仲介の不動産業者が少ない当時のメキシコでは個人間の取引が多く僕の借りた物件も公衆電話の張り紙を見て、ディアナと公園で待ち合わせをして文房具屋で買ってきた契約書にサインをして借りたものだ。

確かに、小さな小さな物件とはいえその場所自体は2階建ての大きな家の一部で2階部分には大学生が5人シャアして住んでいた。

僕はなんの疑問も持たずディアナと賃貸契約を結んだ。当時の僕は労働ビザもまだ持っていなく借りれる場所があれば借りたいと焦っていたのもあるけれど、まさかディアナが突然姿を消すとは思ってもみなかったのだ。

ことの発端は前日にかかってきた電話の主だ。

「私がこの建物の所有者だ」と言い張るその女性は、時々大きな声で2階に住む大学生を叱っているような近所でも有名な変わり者で、背が低く身体は僕の2倍くらい。いつもその幅の広い身体をゆらゆらさせながら歩いてるのを僕も見たことがあった。

ルイスが店にやってきた翌日、また彼女から電話があった。何度聞いても話の筋も意味も理解できないし、とにかく彼女は苛立っている。僕が実際に契約を交わしたディアナの名前を出しても埒があかない。

「どうやって家賃を払っている??」

と繰り返し聞いているようだったので、僕はディアナの母親であるアルマが毎月1日にお店に家賃を取りに来ることを伝えた。

その途端、地雷を踏んだが如く彼女は激怒して僕に言い放った

「明日その物件を出ていけ!!! それが嫌なら私に家賃を払うんだ!
アルマは泥棒だからディアナも詐欺師だ!お前が騙されているのは知らんがその家は私の物だから私に家賃を払わないと本当に追い出すぞ!」

お店を開店させて約2年半も経って、なんで今頃それを言い出すのか、そもそも2階の大学生の家賃を取りに来るときにも僕のお店があるのを知っていたのに。。今思えばそう考えることはできるけれど、その時の彼女の剣幕といきなり大家が3人現れた事実に僕は完全に打ちのめされていた。

そんなことよりも路地のテラス席のことをなんとか解決したいのに、でないと家賃すら払えないや。。そう思った僕は「電話では言ってる事がよく理解できない」と説明して直接会って話をする約束をして電話を切ろうとした。

「だったら今すぐ家に来い!」
そういって彼女は電話を投げ切った。。

彼女の家がどこにあるのか僕は知らなかった。

つづく

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