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救世主 2 【ゴットファーザー】

写真のお店が僕が2008年に地球の裏側メキシコの中央部にある世界遺産の街グアナファトに開いたお店である。僕は毎朝仕込みが終わり、正午に開店してからメキシコ人スタッフ達に営業を任せて近所のカフェで一息入れたあと、街を散歩する。そして、お店に帰る時のこの路地裏の入り口から見える景色がとても好きだった。店内よりもスペースがあり、席数も多い路地裏のテラス席。パラソルの隙間から見える真っ青な空の下で食べるヘルシーなジャパニーズテイストのデリ惣菜。隠れ家風じゃなく正に隠れている路地裏のエキゾチック感。お客さん達が醸し出し創り上げてくれたこのお店のユニークさが一躍街の人気になったのもこのテラス席を常設できるように働きかけてくれた救世主のおかげだ。

丘の上のレストランのセニョールはその日初めて会った僕達に

「何かあったらいつでも相談しなさい」

とメキシコでは良く耳にするフレーズを口にした。

僕は最初「ありがとう」と言ったけれど、セニョールは続けて

「本当だよ。なんでも力になるから」

と「遠慮がちな日本人」を知っているかのように繰り返した。

僕は自然とテラス席の話をし始めていた。お店を開店した頃は全然お客さんが来なかったけれど、路地にテーブルを置きはじめて来客が少しづつ増えてきたこと。一時は撤去させられたけど市役所に行って口約束とはいえ許可をもらってようやく定着してきたころに市長が変わってまた撤去させられたこと。今度はなんど市役所に掛け合っても門前払いで警告書までもらってどうにもできないこと。を時折どうにもならない憤りを表しながらセニョールに伝えた。 

レストランの営業はすっかり終わっていて、店内は僕達だけになっていたのか、セニョールは大声で笑いながら僕の肩をたたいて

「君は運が良い!今日ここに来たのは正解だったね!実に運が良い!」

と実に楽しそうに僕に話かけていた。僕もつられて笑っていると厨房からセニョールの奥さんと娘さんが出てきて僕達の会話に参加した。暫しの間、僕達はまたお互いの紹介をしたり、メキシコに来るまでの経緯を話していたけれど、外がすっかり暗くなって来ていたのでセニョールは僕達にタクシーを呼んでくれた。僕の「テラス席の相談をしたけれど一体その話はどうなったのか?」というちょっと困った顔に気がついたのかセニョールは

「大丈夫。わしに任せておきなさい。君は今日ここでPadrinoパドリーノに会ったんだよ。運が良いね!なあ?」

と言ってシェフである彼の奥さんにウインクした。

「そうね。No te preocupes 心配しないでいいわよ。全て上手くいくから
Don´t Worry, Everything will be all right 」 

いつものやつだ。。。「心配しなくていい」

明日からまたテラス席なしの営業をどうやって続けていくか。。そのアイデアもまだないのに。。それでも、この日は新しい人達と出会えて僕達はそれだけで癒やされた。メキシコ人家族というのは良いものだ。

帰り際、タクシーに乗る前に僕はセニョールに聞いた。

「ねえ、Padrino パドリーノって?」

「はっはっは。パドリーノを知らんのか?そうかまだスペイン語を覚えたてなんだな。

I am the God Father !!  

だから心配するな。全て上手くいくから!」

最後まで屈託ない大きな笑顔のセニョールは嬉しそうに手を振っていた。


「へっ??? ゴッドファーザー??。。なにそれ??」

僕は相談したことよりも、解決策が出ると期待してしまったことを、真っ暗になった丘を背に街の夜景へ落ちていくタクシーの中で後悔していた。

つづく


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