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「歎異抄」復習

『歎異抄』親鸞、唯円 , (翻訳)川村 湊, (光文社古典新訳文庫)

「アミダ如来はんにいただいた信心を、おれのもんやいう顔で取り返そういうのんは、ホンマにアホらしいことやで」。「ホトケはんやお寺さんへのおフセが多い少ないで、大きなホトケや小っさいホトケになるんやいうのは、こりゃあ、ケッタイな説や」。天災や飢饉に見舞われ、戦乱の収まらない鎌倉初期の無常の世にあって、唯円は師が確信した「他力」の真意を庶民に伝えずにいられなかった。親鸞の教えをライブ感溢れる関西弁で!

関西弁風な口調にしたのは賛否両論あるようだが、読みやすく雰囲気を伝えていて良かった。元が漢文だったのは親鸞の時代にはその表記が一般的だったわけで、内容は唯円が親鸞の口伝を伝える章と対話篇からなっている。「100分de名著」でも指摘されていたが親鸞の語りには関西弁が含まれている箇所があったという。川村湊の解説にもあるように、親鸞の『教行信証』は論理的な思想を伝えるもの、『歎異抄』は親鸞の念仏者の体現としての口伝の無思想(言述的ではない口承文学的なもの?)を伝えるもの。

例えば「ナンマンダブ」と唱える念仏は言説的には「南無阿弥陀仏」と表記されたとして、あるいはさらに厳密にサンスクリット語じゃなければいけないとかいう問題以前に、まさに親鸞が救いを立てた河原者の言葉でその多様な唱和がアミダ様の慈悲にすがるということなのだ。

付録として親鸞和讃が載っているのは漢文だけの論述ではなく、歌として女子供河原者にも念仏を伝えようとした親鸞の姿が垣間見れる。(2016/06/06)

「ひとに聞かせられへんアホなことばかり考えいるワテですけど、昔のことや今のことを思うてみるにつけても、先師・親鸞聖人のいわはったという教え(=口伝)が誠の信心と異のおうてきたのを嘆いとります」(親鸞、唯円 , (翻訳)川村 湊『歎異抄』)
「この親鸞には、ただ「ナンマンダブ」と念仏して、アミダはんに救うてもらいなはれちゅう、法然聖人はんの教えてくれはったことを信じとるだけで、別に、ほかのなあんにも仔細な理由はあらしまへん。」「ナンマンダブ」ちゅう念仏は、まっこと、浄土に生まれ変わるタネになるのやら、また地獄に堕ちる業となるんか、どっちがどっちやら、ようわかりまへんのや」

翻訳者の川村湊は、同じ光文社古典新訳文庫で『梁塵秘抄』(編集) 後白河法皇でも演歌調で翻訳していた学者。

『歎異抄』 2016年4月 (100分 de 名著)

絶体絶命の時に浮上する言葉

『歎異抄』に収められた親鸞の言葉と、苦悩と矛盾に満ちたその生涯から、現代社会を生きるためのヒントを探る。

第1回 人間の影を見つめて

比叡山の修業で限界を感じた親鸞が在野に降りてくる。現実世界に対して悟りを開くのに限界を感じたのは「為せば成る」それまでの自力本願方式が通用しなくなった。そこから救済宗教の他力本願へと。戦乱や飢饉の当時の末法は大震災や原発事故の現代と重なるような。 

第2回 悪人正機説

この「悪人」は一般的な意味での「悪人」ではない。自力で悟りを開く者「善人」に対しての煩悩から逃れられない者、「悪人」。そもそも他力本願によって救済を求む悪人の道(正機)、阿弥陀仏は悪人を先に救うのだ。善人は自力本願でやっとけ。

浄土宗が救済宗教(弱者の宗教)となって一神教化傾向が強くなる(阿弥陀仏だけに頼る)。阿弥陀仏は「限りない光」「限りない生命」の意。太陽神のエジプトのアモン(アメン)信仰と共通項があるような。虐げられた者(ユダヤ人)がモーセに導かれていく。キリスト教のアーメンと浄土真宗の南無という呼びかけも似ている。南無は「おまかせします」の意味だけど、親鸞の解釈だと仏の方から「まかせてくれよ」と呼ばれている。

第3回 迷いと救いの間で

「歎異抄」というのは法然や親鸞の教えが師が亡くなった後に亜流が出てきたので「異義を嘆く」という意。前半が親鸞語録で後半が異義編。多念義系(専修賢善)と一念義系(造悪無礙)とのどちらに隔っても駄目。「愚者になりて往生す」「ひと千人ころしてんや」

「千人殺し」の喩えはわかりづらい。殺してはいけないではなくて、思い通りに殺す縁がない。状況次第では人間は何をするかわからない。もともと性悪説なのか。フロイトの死(破壊)の欲動。回心。リミッターとしての『歎異抄』、都合の良い部分だけの教義の宗教は暴走する。ここは難しい。

第4回 人間にとって宗教とは何か

信心は仏様の方からやってくるので、上下はなく、知識の積重ねではない。たった一つの契機となる身心がある。「世間虚仮 唯仏是真」(この世のものは偽物であって、ただ仏の教えのみが真実)。虚構性の物語が文学に似ているのだが。信心が宗教、疑心が哲学。邪心が文学。(2016/04/17)



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