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新春特集号はお得か?

『短歌 2023年1月号』

特別企画新春誌上歌会2023

【新春133歌人大競詠】
[特別作品10首]岡野弘彦・馬場あき子
[作品10首+エッセイ]春日真木子・来嶋靖生・平井弘・秋葉四郎・高橋睦郎・佐佐木幸綱・玉井清弘・高野公彦・伊藤一彦・三枝昂之・日高堯子・沖ななも・三枝浩樹・時田則雄・小池光・佐伯裕子・香川ヒサ・永田和宏・花山多佳子・春日いづみ・今野寿美・藤原龍一郎・内藤明・松平盟子・栗木京子・渡辺松男・川野里子・加藤治郎・俵万智・穂村弘・吉川宏志
[作品7首+エッセイ]藤岡武雄・松川洋子・志野暁子・田野陽・武田弘之・志垣澄幸・森山晴美・島崎榮一・奥村晃作・千々和久幸・雁部貞夫・浜田康敬・三井ゆき・池本一郎・井川京子・田村広志・沢口芙美・伊勢方信・佐藤通雅・外塚喬・久々湊盈子・中埜由季子・鵜飼康東・若菜邦彦・秋山佐和子・安田純生・阪森郁代・池田はるみ・木村雅子・三井修・小黒世茂・萩岡良博・阿木津英・山田富士郎・福井和子・田宮朋子・渡辺幸一・今井恵子・中川佐和子・江畑實・尾崎まゆみ・佐々木六戈・久我田鶴子・中津昌子・河野美砂子・一ノ関忠人・黒岩剛仁・大崎瀬都・大谷雅彦・田中道孝・松村由利子・藤島秀憲・大塚寅彦・林和清・荻原裕幸・浜名理香・佐藤弓生・真中朋久・紀野恵・辰巳泰子・森山良太・江戸雪・高島裕・大口玲子・梅内美華子・大松達知・田中章義・横山未来子・斉藤斎藤・駒田晶子・笹公人・永田紅・鍋島恵子・齋藤芳生・澤村斉美・光森裕樹・石川美南・永井祐・竹中優子・楠誓英・伊波真人・平岡直子・小島なお・谷川電話・川島結佳子・野口あや子・大森静佳・吉田隼人・藪内亮輔・山川築・山下翔・睦月都・小原奈実・立花開・鈴木加成太・田中翠香

【特別企画新春誌上歌会2023】
大下一真・小島ゆかり・東直子・田村元・佐佐木定綱・道券はな

【連載】
うたの名言
家族の歌
フリージアの記
挽歌の華
かなしみの歌びとたち
ぼくは散文が書けない
啄木ごっこ
ふるさとの話をしよう

【歌壇時評・月評・歌集歌書を読む】

【書評】
伊藤一彦『言霊の風』
下村光男『海山』
寺島博子『ひすいの時間』
三原由起子『土地に呼ばれる』
尾崎まゆみ『ゴダールの悪夢』
今井恵子『ふくらむ言葉』
久我田鶴子『短歌の〈今〉を読む』
横山未来子『いちばんやさしい短歌』
福島泰樹『自伝風 私の短歌の作り方』
岡井隆『岡井隆の忘れもの』

【投稿】
角川歌壇…長澤ちづ・塚本諄・井辻朱美・大辻隆弘
題詠…川崎勝信

歌壇掲示板・読者の声・編集後記/次号予告

出版社情報

文芸誌の新年号も新春創作大会になるのだがほとんどお気に入りの作家以外に読んだことがなかった。短歌雑誌も最初の驚きは133歌人がいて、その中で自分が好きなのはほとんど一人か二人。ざっと目を通しても初見ではわからない。好きな歌人をじっくり読む感じでいいのかなと思い、穂村弘をじっくり読んでみた。

かえらばや  穂村弘

尾や耳や鼻挟まれて泣いている動物たちが電車のドアに
僕たちに「痛い」「痛い」と叫ばせるオモチャあったアメリカンクラッカー
手品売り場のお兄さんからウインクをされたら六十歳になっていた
「愛敬」がちらばっている犀星を中心とした人物相関図
日本一ほほべに濃い街らしい 橋の上にはくるくると風
手裏剣を打ちたいという人の手を引っ張って「かがやき」に間に合った
はくとって白兎ですかと気がつけば大辻さんと江戸さんがうんうん
赤ちゃんの豹の命を救おうと云われて挽いた夜の珈琲
「奥様は魔女」の中ではハロウィンが万聖節と訳されていた

『角川 短歌2023年1月号』

尾や耳や鼻挟まれて泣いている」の出だし。穂村弘の短歌はわかりやすさだ。それでいて最初の入りが衝撃的で動物が虐待されているのかと思ったら、結句に「電車のドアに」。人間だった。
アメリカンクラッカー」がすぐに思い出せなくて。クリスマスの時にパン!と鳴らす「クラッカー」かと思ったが、「あった」「あった」。睾丸のような玉二つを紐に繋いでぶち当てるだけの代物。無心にやっていたよな。「痛い」という思い出はなかったけど。これが痛いとなるのはかなり下手なんでは?
六十歳になっていた」も面白いな。穂村弘も六十歳。
犀星」は室生犀星だろうか?「愛敬」と「敬う」という方の漢字をつかっているから当時の詩人たちはそういう関係があったのか?犀星というと萩原朔太郎とか白秋とか。室生犀星『我が愛する詩人の伝記』を思い出す。

他にも芥川龍之介とかも交流があったと何かの本に出てきたな。最近読みたいと思ったのは富岡多恵子『室生犀星』。繋がりが想像できなかった。

日本一ほほべに濃い街」。これはどこか想像するのが楽しい(それを狙っている)。愛敬ある街だから渋谷はパス。吉祥寺とか。イメージとして。横浜でもいいけど。ツンツンしてそう。橋からだと宇治とか(『源氏物語』のイメージ)?
手裏剣」の歌も架空の場所が「かがやき」なんだろう。すでに消滅した彼岸。幼い頃かもしれないし、江戸時代かもしれない。
大辻さん」が「大江さん」に空目。次の「江戸さん」の錯覚だろうか?多分歌人仲間なんだろうな?大辻隆弘と江戸雪。歌会なのかな?「白兎」は「いなばの白兎」かと思うが「はくと」と読ませるのは何だろう?「スーパー白兎」(ネット検索で電車が出てきた)かも。
豹は」「黒豹」か?「夜の珈琲」が味わい深い。
ハロウィン」の歌。こういう細かいことはキリスト者ではないからわからないがグーグルによると「ハロウィン」の後が「万聖節」でキリスト教の行事なのだ。その前の「ハロウィン」はケルト神話の祭りで邪教といいうことだ。つまり魔女は「万聖節」と言ってはいけない。キリスト教の門下に下ったのか!ということだろうか?
総題の「かえらばや」は帰っていくことかと思ったら変わらなきゃという意味があるのかもしれない。一つ謎が解けた!室生犀星の「小景異情」という詩の最後が「遠きみやこにかへらばや」だった。

「特別企画新春誌上歌会2023」

正月は歌会というのはよくあるのだろうが、これは面白かった。実際に自分も参加させて見た。歌はつくらなかったが。

今流行りの歌がどういう傾向なのか、プロはどこに注目するのか伺える。参加者は大下一真(1948)、小島ゆかり(1956)、東直子(1963)、田村元(1977)、佐佐木定綱(1986)、道兼はな(?)。()内は生まれ年である。最後の道兼はなはわからなかったが、一番若い歌人であろう。題詠「明」一首、自由詠一首、一人二首提出、三首選。

1連綿と足跡続く一行の道に踏み込む春雨の夜
2スイッチを切らずにプラグを引っこ抜くように出社す一月四日
3銀銀杏の風を拒んでいるさまもコンテンポラリーというべきか
4こめかみに雪ふるごとしもう会へぬ人のこゑする夜の交差点
5鳩を放つ役目を終えて鳩を待つアドバルーンになりたかったな
6目つむりて升酒に口つけるとき眉間に明かり灯るここちす
7好きな人も苦手な人も作らない 明るい色のスープを掬う
8身を焼きて捧げしうさぎが住む月はまるく明るく兵器は要らぬ
9鴨臭い真冬の川のむかう岸あひる二羽ゐるところ明るし
10明け方の陽に縁取られ弛みだすトルソーという淡い曲線
11街灯の明かりに本を燃やしたる学生いつも帰れずにいる
12かえるでの落ち葉は小さく軽ければ札にはならず焚きて芋焼く

『角川 短歌2023年1月号』

1はわかりやすい。でもどこか団体旅行でもあるような。中年以上と見た。とりあえず△。
2は表現が上手い歌だと思う。これは「明」という題詠なんだろうな。○か?道兼、大下、小島、佐佐木、東が選。つまり五点満点ということだ。田村元の歌。
3は「コンテンポラリー」がおしゃれな歌だ。「コンテンポラリー・ジャズ」とかあるし、でも意味がわからない。モダンということかな?△。田村選。コンテンポラリーはダンスだった。銀杏の葉が二つ重なって落ちる様のような。解釈を聞くと上手い表現だと思う。若い人だな。
4は『源氏物語』で雪が落ちてくる様子を白髪に喩えた歌があったのを連想さす。「もう会えぬ」という言葉からお年を召した方だと。旧仮名遣いもベテラン歌人のにおいがする。△。道兼、東、選。気配りか?
5は不思議ちゃんだな。若い人か?アドバルーンが突然現れる。なんかその異様さ。スターリンの映画を思い出した。☓。まあ、☓にするにも勇気がいるのだがよくわからんかった。小島、田村、選。驚きがある歌だから点が入ったのか?
「目つむりて」が寺山修司を連想させる。ベテラン歌人とみた。酒を飲みの歌。酒を飲まないので☓。道兼、大下、佐佐木、選。高得点だった。酒飲みが多いのか?
7は若い歌人だ。「明るい色のスープ」をうまい表現だと見るか?具体的なものの方がいいと思うが。短歌は多様に取れるほうがいいのかもしれない。△
8は一見若そうにみせて社会詠だから中年以上と見た。小島さんかな?☓
9「鴨臭い」がなんか上手い表現のような。旧仮名遣いのベテラン歌人。○かな。大下選。
10また「トルソー」とかわからない言葉を使う若手歌人だろう。「コンテンポラリー」の人と同じ匂いがする。☓。佐佐木、東、選。若手には受ける歌なんだな。
11夜学生なのか?ベテラン歌人っぽい。けっこういい歌だと思うが書生臭いかもしれない。△
12「かえるで」がようわからん。「帰るでー」ということかな。焚き火で芋焼くがいいかもしれない。△。小島、田村、選

選んだのは2と9。もう一つだったら11かな。若い歌人の言葉はわからないのが多い。3は道兼はなだった。
9は小島ゆかり。「家鴨臭い」が秀逸だと。
5は東直子。アドバルーンがよくわからないという意見あり。何かの儀式で鳩を放つということとアドバルーンの視点移動ということだった。トリッキーな短歌だ。東直子と言われると納得するな。
10「トルソー」も道兼だった。オジサン泣かせの歌人だった。でも佐佐木もわからないと言っていた。トルソーがマネキンだとわかると味わい深い。おしゃれな歌だよな。
12「かえるで」はカエデの古名だった。札はお札。大下の歌。
1は佐佐木の歌。中年でもなかった。一行は先輩歌人の後にの意味だという。わかりにくい。
7は東直子。ポップな感じなんだろうな。東直子だと納得がいく。
8は大下だった。ベテランだとは思ったが前半がロマンチック過ぎる。これは説話で食べ物をウサギだけ何も持ってこなくて自分を焼いて食べて下さいという自己犠牲を現しているのだと。むずかし過ぎ。
11は佐佐木。
6は酒好きの田村。その歌ですぐわかってしまうという。それで若手の票を集めた?
2も田村だった。「引っこ抜く」が斬新な表現。だいたい「スイッチを切る」ぐらいは言えるのだが、「引っこ抜く」は「正月から日常という」らしい表現。東直子は読みが素晴らしく、機械の痛みと人間の痛みを同時に表現していると。

その他感想

歌壇時評。越田勇俊の「散逸について」はネット歌壇が流行りだが記録ということで散逸していく消費文化の中で中世の和歌の勅撰集のようなものが出来ないかと。『ホスト万葉集』あたりがそのヒントになるだろうと。そういえば『平成万葉集』という番組で短歌に興味を持ったな。「挽歌の華」は春日井健。「悲しみの歌びとたち」近藤芳美に興味が持てた。


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