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大江健三郎の日常的なエッセイ

『親密な手紙 』大江健三郎(岩波新書 )

窮境を自分に乗り超えさせてくれる「親密な手紙」を、確かに書物にこそ見出して来たのだった」。渡辺一夫、サイード、武満徹、オーデン、井上ひさしなどを思い出とともに語る魅力的な読書案内。自身の作品とともに日常の様々なできごとを描き、初めて大江作品に出会う人への誘いにもなっている。『図書』好評連載。
一章
不思議な少年
困難な時のための
感受性のある個性
ブクブク
本当のこと
「器用仕事」
人間を慰めることこそ
ヒヨドリ再説
新訳に誘われて
死者たちの時
ジョイスと武満
作曲家と建築家
二章
バロックのブクブク
愛をとりあげられない
幼児が写真を見る
品格の問題
ナンボナンデモ
返 礼
ノリウツギの花
真っさらのタンクロー
短篇作家の骨格
衿子さんの不思議
生活の隙間
三章
様ざまな影響
茫然たる自分の肖像
復 権
心ならずも
伊丹十三の声
しっかりやりましょう!
バーニー・ロセット
毎日毎日うつむいて
ラブレー翻訳は続く
キツネの教え
同級生
希望正如地上的路
四章
不確かな物語
もぐらが頭を出す
同じ町内の
鐘をお突き下されませ
ボーヨー、ボーヨー
偶然のリアリティー
実際的な批評
グルダとグールド
本質的な詩集
先生のブリコラージュ(一)
先生のブリコラージュ(二)

大江健三郎が個人的に手紙でやり取りした著名人の思い出と家族を取り巻く軽めのエッセイ。最初に義兄の伊丹十三亡くなった時に自身も病に伏していたサイードが励ましの手紙をくれたという、結局返事を出せないままサイードが亡くなってしまった。これまでたびたび語られているがお爺ちゃん作家になったからなんだか、繰り返し語られる話が多い。ただこの手紙が「晩年の仕事」としての小説を書く力を与えてくれたので大江健三郎はサイードに感謝しきれないのだろうと思う。

ただそんな中にも大江健三郎のユーモアを感じる手紙のエッセイもあり、佐多稲子が大江健三郎の小説を褒めたと母に話したら、かつて佐多稲子と交流があった母がぜひその先生(佐多稲子)の手紙を問題の箇所を赤いアンダーラインを引いて送って欲しいと言われたのだが、そこは性的な描写で母には送れなかったという話。何度も催促されたので最終的には送ったのだが。母の返信が面白い。あと光君との日常のやり取りなどほんと息子が好きなんだなと感じる。

それと晩年に大江健三郎が興味を持った作家の本などの引用も交えて興味深い。長い作家生活で第一線で活躍した人だけに著名人が多い。安部公房との絶交の元になった話は初めて知った。安部公房が小説を書かずルポルタージュばかり書いているから奥さんに注意してくれと言われたとか。しかし後にそのルポルタージュが小説のアイデアになったと知って詫び状を出したという。


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