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経済発展していく中国の青春群像の裏側のドキュメンタリー映画

『青春』(2023年/フランス・ルクセンブルク・オランダ/カラー/ビスタ/3h35)監督:ワン・ビン(王兵)

「鉄西区」「三姉妹 雲南の子」「死霊魂」などのドキュメンタリー作品で世界的に高く評価される中国出身のワン・ビン監督が、中国の巨大経済地域の小さな衣料品工場で働く若者たちの姿を見つめたドキュメンタリー。

上海を中心に、大河・長江の下流一帯に広がり、中国の高度経済成長を支えてきた長江デルタ地域。織里という町の衣料品工場で働く10代後半から20代の名もなき若者たちにカメラを向け、彼らの労働と日常を記録する。

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたほか、第60回金馬奨で最優秀ドキュメンタリー賞、第49回ロサンゼルス映画批評家協会賞でエクスペリメンタル賞を受賞した。

経済発展する中国の長江の下流の中小企業の裁縫(ミシン)工場を描いたドキュメンタリー。日本だと60年代後半から70年代初頭の下町工業地帯のイメージか。出稼ぎ労働者と言っても就職難の若者が主婦層に混じって働くイメージか。ミシンの音が先日観た『関心領域』のような騒音のドキュメンタリーだが、それは生活音のようなのかな。二十歳前後の若者が住み込みで(古い団地のようなビルの下が工場のような)働いているのだが、悪環境にもめげずにミシンの騒音の中で男女隣り合って、彼女にしようとちょっかいを出したり、じゃれ合ったり、若者のエネルギーが満ちていた。後に出てきた経営者も27歳の青年実業家という感じなのか(幼い子供がいるので若い中小企業の社長か)。その中で喧嘩があったり、ラブストーリーがあったり、男だけでじゃれ合ったり、賃上げの団体交渉したりするのだが、全体的には下町のゴミゴミした感じの中の青春ドキュメンタリーになっている。それは低賃金で働く中国の低所得者を描いた裏の顔なのだが、映画としては若者たちが精一杯いきるエネルギーを感じるのだ。それは『青春』というタイトルにあらわれているだろうか?

ワン・ビン監督としてはそういう中国の経済発展していく表側『劇場版 再会長江』よりも裏側の中国を撮ろうとした感じだが、映画全体から受ける印象はエネルギー溢れる日本の高度成長期のようなドキュメンタリーだった。

給料も半年事に支払われるのが五十万とか。前借りしていたりするとその半分にもならなかったりするのだが、その中の一人の実家では二階建ての豪華な家が新築されているのだ。目の前には湖があり、桃が植えてあったり時給自足の生活も出来そうなんだが、都会に憧れて出てくるのだろうか。ちょうどスマホ世代だからゲームをやったり、音楽を流しているのだがニューミュージックのような恋人たちの世界の歌詞で、そのなかでおばさんをナンパしたりする青年がいるのだった。

仕事も煙草を吸いながらとか今の日本では考えられない作業所でゴミで散らかり放題なのだが、そんな中で女の子たちは化粧したり着飾ったりしているのだった。最初に妊娠問題で騒動になるシーンがあったのだが、そういうことが多い職場だった。三時間半は、長いと感じる人もいるだろうが、その世界に入ってしまうといろいろ興味深い中国の若者の動向とか伺えて面白い。思ったりチャランポランで現実主義なのかな。やはり若さのエネルギーという熱量を感じさせてくれる映画だ。カメラが工場の中に溶け込んでいる姿が素晴らしいドキュメンタリーだった。意識している者も多いのだが、それも若者の屈託のない姿を写している観察映画なのだろうか?


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