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「環世界」である「愛の夢」とか

『愛の夢とか』川上未映子( 単行本 – 2013)

第49回谷崎潤一郎賞受賞!『ヘヴン』『すべて真夜中の恋人たち』と一作ごとに新境地を拓く川上未映子の多彩な魅力が一冊になった初めての短編小説集!何気ない日常がドラマに変わる瞬間をとらえて心揺さぶる7ストーリーズ。

『アイスクリーム熱』

アイスクリーム屋でバイトする彼女と客である彼との話。アイスクリームを自宅でも作れるというホラ話をして彼を部屋に真似ていてアイスクリームを作ったが。アイスクリームと恋に熱を上げる話で、それは溶けますって。

『愛の夢とか』

一番面白く読めた。リッチ(ピアノの音が聴こえてくる)な老婦人と語り手が知り合うのだが、偶然ピアノの話をしたことから友達になる。リスト「愛の夢」を練習していて、それが毎日聞こえてきたのだ。

その家の玄関には花が飾られている。流行りの花屋で揃えた流行りの鉢植えだろうか。「カフェの入り口」みたいな。書き出しは、花屋で切り花のばらを買うマダム連の話で、3.11の話題が出たのだった。彼女らは危険を口にするけど引っ越しもせず花を買い続ける。生活を変えることなく。そんな語り手が金持ち婦人とリスト「愛の夢」が縁で友達になって、家へ上げてもらう。

そこでピアノを聞かせてもらうのだが、まだ練習段階で完全には弾けない。そのとき婦人はテリーと呼んでと言ったのだ。語り手がとっさに名前を知らないことに気がついてどう呼べばいいのかわからなかったから、なんと呼べばいいのか聞いたのだ。本当は照子とか照代なんだろうけど「テリー」だ。そして、語り手にも名前を聞く。そこで「ビアンカ」と答えた。ドラクエでお馴染みだけど、子供のアニメからと言っている。そうして、「テリーとビアンカ」の友情物語が始まる(予感?)。

これは「環世界」だと思った。世界が「愛の夢」の物語で、その物語(バーチャルと変わらない)の中でリスト「愛の夢」が弾けるようになって(完結して)関係は終わる。その後は最初の出会うまでの生活に戻るのだ。「とか」が余計な語り手なのか?

『いちご畑が永遠に続いていくのなら』

ネット情報によりますとこの頃某作家と恋愛関係だったようです(作品化しているから結婚していたかも)。そういう甘い話ですよね。いちごの食べ方で練乳をかけて潰すから、最初から潰して上げたのに彼は潰してないいちごを食べたという。食べるときは潰したいちごで練乳というのは美味しいけど他人にやってもらうのは嫌ですよね。

そこまで許されたらよほど親密であるということなのかな。いちご潰しスプーンが商品になるぐらいだから、特別なことではないのですけど。

それで彼の鼻を潰してスプラッターにするのは特別なデザートでしょうか?

『日曜日はどこへ』

学生時代の読書友達とお互いに好きだった有名作家の本が縁で、その作家が亡くなったらお互いに結婚してても、この植物園の前で再会しようと約束する。それだけでストーリーが膨らんでいきます。

でも私はこの作家は誰なんだろうと興味をもってしまいました。川上未映子が好きそうな古井由吉かな、と思いましたがこの本の発売時には生きていたのです。

「植物園」の連想から吉行淳之介だろう?と思いましたがネットで検索すると随分前に亡くなっていた。そうだ、吉本隆明だとわくわくしてしらべたけど惜しいかな本の発売時には亡くなっていたけど執筆時には生きていた。

まだ謎のままです。そんなところでこの二人はすれ違って行くのですけど。

『お花畑自身』

どこかで川上未映子の春樹化が起きているという情報を得たのがこの短編集を読み始めたきっかけです。本当は『夏物語』を読みたかったのですが、この本が積読してあった。『ヘブン』以来、久しぶりに読んでみました。『ヘブン』でその傾向があったのか、それから違う世界に行ってしまった感じで。

なるほど『お花畑自身』、これは村上春樹『納屋を焼く』の「お花畑」ヴァージョンだった。格差社会で夫が破産して家を手放さければならなくなった主婦は20年かけて家を彼女の理想の空間に育て上げた。しかし、その家を手放すことになり(自営業の夫の破産で)、内覧会で来た悪魔のような(流行歌手の作詞家で成金になったような)女が来て家を買う。主婦は家を手放し引っ越したのですが、それまでの家が気になってつい覗いてしまう。そしてお気に入りの庭が枯れかかっているので水を上げてしまう。その時今の持ち主である悪魔の女が帰ってきて。

家の未練があってそれを断ち切れない主婦と成金で家を買った悪魔のような女が鉢合わせする。庭から窓を隔てて。その主婦の気持ちを見事に解釈するが悪魔の女なんですね。そして、箱庭療法というべき.........、納屋を焼くじゃなく、庭に埋めるという荒療治。

ストーリーテラーとしての川上未映子は、この短編で谷崎賞なのかな、と思いました。芥川より谷崎ですよね。筋のある話で見事なストーリーテラーとなっていました。

『十三月怪談』

もストリーで読ませる小説になっている。腎臓病で亡くなる時子が幽霊となり夫を見守る。夫は時子のことを忘れてマンションも引き払い結婚して子供も出来て老後を迎えるのだが、大地震で脳震とうを起こして20年前の大地震の前の時子との幸せの生活に戻るという話です。

結局、愛の永遠性みたいな話なのかなと思いました。時子(主人公)が死ぬ前に読む小説が結核で亡くなった妻を思う作家の作品で、原民喜かと思いました。原爆と大地震というカタストロフィーもテーマとなっているのが共通項ですね。その後に残るものは「愛」なのか?ということです。

「死ぬと姿が消える」という作家の言葉通りに姿を消すけど幽霊として存在して彼を見守る。一度目は悲劇で二度目は喜劇か?と思うような展開になります。大島弓子『四月怪談』のパクったという説もあります。

『日曜日はどこへ』は外の話で『アイスクリーム熱』で部屋に閉じこもり『愛の夢とか』が「環世界」である家の完成。『いちご畑が永遠に続いていくのなら』から『お花畑自身』は畑のイメージから箱庭のイメージ。そして家の崩壊は、『十三月怪談』ですね。内部崩壊でもあるのですが。


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