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玉三郎の妖艶さを見る映画

『夜叉ヶ池』(松竹/1973)監督篠田正浩 出演坂東玉三郎(5代目)/加藤剛/山崎努 音楽監督富田勲


泉鏡花の小説を、歌舞伎俳優の坂東玉三郎主演、篠田正浩監督で映画化したスペクタクルファンタジー大作。越前・三国嶽の山中、竜神が封じ込められているという夜叉ヶ池。各地の不思議な物語を集めるため東京からこの地を訪れた萩原晃は、かつてこの地で50年間、鐘をつき続けてきたという老いた鐘楼守の弥太兵衛に会い、鐘にまつわる不思議な話を聞く。昔、人と水が戦い、この里が滅びようとした時、竜神を夜叉ヶ池に封じ込めたという。竜神を鎮めるために毎昼夜3度ずつ鐘を鳴らしていると話し、その日に弥太兵衛は死んだ。村人たちは鐘をつかないと竜が暴れだすという話に耳を貸そうとしなかったが、その時、美しい百合と知り合った晃は自身が第二の弥太兵衛になることを決心する。玉三郎が百合と夜叉ヶ池の竜神・白雪姫の二役を演じた。大規模な海外ロケ撮影や当時最先端の特撮技術を駆使して幻想的な世界観を生み出した。1979年に製作・公開。2021年7月、映像や音声が修復された4Kデジタルリマスター版

WOWOW鑑賞会。何よりも玉三郎の妖艶さを堪能できる映画。それまで玉三郎は、それほど興味なかったのだがこの『夜叉ケ池』にはやられた。最初に百合役(蛇の化身)の玉三郎は人間界の人ではない艶めかしさを醸し出していた。なんていうか中性的な魅力は、半獣人間の魅力というような。

そしてもう一方の白雪姫は、作られた人工美というような幻想性。性格も百合とは対照的でお転婆娘。その前に妖怪たちの行進があり、そこが狂言的な喜劇なのだ。役者も蟹五郎の常田富士男、鯰入の三木のり平といった面々。そこがエンタメ性なのだろう。音楽が冨田勲で最初は違和感しかなかったのだ(やっぱ日本的情緒を感じさせるなら武満徹の方が合っていると思う)が特撮映画としてみれば、これは立派なエンタメ映画なのである。

ただそのアンバランスが泉鏡花の芸術性(文藝大作)と特撮モノの妖怪物語としてのアンバランスさが興行的には失敗だったようだ(封印されたという)。それでも海外ではマーティン・スコセッシ監督の称賛を受けている。まあ歌舞伎的な臨場感を特撮に求めるのには無理がある。ただそう安々と歌舞伎など見られないのだから、このへんの映画で楽しむべきなのかもしれない。そのぐらい歌舞伎調の映画だったのだ。

そんな意味で玉三郎の映画なのである。特撮ものの方に寄ってしまったのが、エンタメ映画の成り立ちとして失敗だったのかもしれない。歌舞伎映画として見ればよいのである。

泉鏡花『夜叉ケ池』


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