映像詩的なある夫婦のレクイエム
小さき麦の花(2022年/中国)監督・脚本:リー・ルイジュン 出演:ウー・レンリン、ハイ・チン
中国のバブル時代で消えていく農民夫婦の物語を映像詩的に描いた映画。労働讃歌的なイデオロギーがあった前世代の理想像なのだがバブル時代には幸せになれない運命にあるのか?
日本だと『北の国から』の中国版のような気もするが、フェリーニの暴力男がでない『道』の方が近いのかも。妻は障害を持つが彼の優しさに惹かれて、次第に彼らは家を持ち土地を耕し幸せになるかと思われたが妻の不慮の事故。抜け殻のようになった彼と家はブルドーザーで潰されていく。
旧家を壊せば地主に金が入り、近代的な高層ビルに移動させる政策が背景にあるのだ。農民は土地を奪われ、身を粉にして働いても報いはない。ラストにロバを放すシーンが印象的だ。BMVよりロバの方が働くと言ってロバを家族同様一緒に働いてきたのだ。土からレンガを作り家を作る、農業も地道にロバと人で耕す。そういう職人的な技を持っているのだが近代化では不要にされてしまう。妻の死はある部分運命だったのだと思える。そのまま生き続けることはバブルの中国では叶わぬ夢だ。だからこそ幻想的な映像詩になったのだと思う。