光源氏より権力を持っているのは誰か?
『源氏物語 30 藤袴』(翻訳)与謝野晶子( Kindle版)
「藤袴」は藤ではなく蘭の花のようです。それも花屋で売っている豪華なものではなく、日本の野生の蘭ですね。それは玉鬘がもとは宮廷出身者ではなく野に放たれた人だったからだと。夕霧の言い寄る口実の和歌が物語っています。
同じ野というのは、大宮の祖母から生まれたという意味に読んでいるが(角田訳)、野に放たれたという意味も含んでいるような。夕霧は光源氏によって、官位(殿上人)の位を与えられなかった。だから身分的にも同じだったと言いたいのだろうけど、でも違いは男女間の制度にあることはわかっていない。
玉鬘の返歌は、そうした縁もわずかばかりのものに過ぎないと返している。夕霧はここぞとばかり攻めているのは、宮に仕えたら手を出せないと思ったからでしょうね。まあ光源氏の血筋ですし、実際に側に血のつながっていない妙齢な女性がいたらものにしたいと考えるのはこの時代の男性原理だったのか。男尊女卑ならではの当然ものに出来ると思っていたのでしょう。
それでも強くは出れない夕霧には、やはり光源氏のことが頭にあるのだろうと思います。光源氏の使いでしかない身分をわきまえているといえばわきまえているのが彼の弱さにも見える。
光源氏も都合よく夕顔の遺言だったなどと建前を言うけどそんな遺言は後から出てきた話であって、実際に光源氏の行動をみれば単に玉鬘をものにしたいだけであった。それを今度は権力のために使おうとするのだから恐ろしい。
夕霧も光源氏の権力を傘にして言い寄ろうとしている。頭の中将の手紙も父の内大臣の権力があるからおいそれと手出しは出来ない。それを最初から知っていた玉鬘は、姉弟という建前が父たちの権力にあるのを知っている。すでに親娘の垣根は光源氏の間ではとっぱわれているのだから。髭黒の大将を選ぶのも彼らより権力があるからである。兵部卿の宮に寄り添うのも、当時の悲しい性(さが)のように思える。一番の権力者なのだから、つまり光源氏よりも地位が上なのだから光源氏を見返したいと思えば自然と寄り添いたくもなるであろう。それを女の手本としてというのはどうかと思うが。
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