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震災後の神戸のはんなり映画かな

『三度目の、正直』(日本/2021)監督野原位 出演川村りら/小林勝行/出村弘美/川村知/田辺泰信/謝花喜天

解説/あらすじ
月島春は、パートナーの連れ子・蘭がカナダに留学し、言い知れぬ寂しさを抱えていた。そんなとき、公園で記憶を失くした青年と出会う。過去に流産も経験している春は、その青年を神からの贈り物と信じ、今度こそ彼を自らの傍で育てたいと願う。一方、春の弟・毅は音楽活動を続けている。その妻・美香子は精神の不安を抱えながら、4歳の子を育て、毅の創作を献身的に支えていた。それぞれの秘めた思いが、神戸の街を舞台に交錯する。

アカデミー賞を取った濱口竜介監督『ハッピーアワー』の共同脚本を担当した野原位監督は、濱口竜介監督と似た感じを受ける。それは感情移入させる演技よりも、異化効果を狙った感じで、姉弟夫婦の関係性が相反しながら影響し合う二重構造になっているのだ。ジョン・カサヴェテスの映画で病んでいくジーナ・ローランズのような関係性のドラマ。ちょっと複雑かもしれない。

『三度目の、正直』というのは、子供が出来ない姉の春が夫と別れた後に記憶喪失の青年を引き込んで生活するようになる。普通なら極めて異常なことだが、自然と流れの中で一緒になってしまう。それは、神戸という震災を経験したことでぽっかり空いた隙間を埋めるような、そのような寄り添い方。青年の方は別に春のことが好きでもないし、ある部分面倒臭いと思いながら母親のように寄り添う。

京都に「はんなり」という言葉がある。自然と生き方が出てくるような、きっちり生きているのではないが「はんなり」生きていく。そんな生き方が春の柔軟性でもあり、わかりにくさでもある。

そして、弟夫婦の場合は、神戸でそれなりのラップミュージシャンである弟は、自分の好きなことをやっていている。妻も協力的に外目には音楽一家という感じなのだが、妻はそれが負担にな精神が病んでいく。そのかかりつけ医が姉の旦那だった。こっちのストーリーはわかりやすい。

子供が生まれて妻は夫のためにも変化させた自分だったのに、夫の方は昔のままなのだ。その不公平感、子育てや家事や夫との共同作業がすべて自分の為というより夫のためなのだ。そこまで変わってしまった自分がいるのに、夫は変わらずに自分の夢を求め続ける。その精神状態のアンバランスが、かかりつけの精神科医と出来てしまう関係を作ってしまう。

肉体関係はないのだが、心の隙間に入り込んでしまう。姉の場合も肉体よりは心の関係性だった。そこが通常の恋愛ドラマとは違うところで、肉体関係よりは精神関係。

弟のラップミュージシャンのライブに、かかりつけの精神科医が来るところで事件らしい事件が起きる。そのあとに弟と妻の車の中の会話が面白い。弟はスマホで電子音を刻み会話しようとするのだ。ラップのように。しかしそれは妻のスタイルではない。話にならないのだ。当たり前といえば当たり前。

ラップミュージックのストレートな感情と希薄な心の隙間の違和感。それが異化効果を生んでいるような気がする。姉と記憶喪失の青年も青年の父親は過剰な人なのだ。その犠牲になった青年。

神戸という街が震災で隙間が出来たような、そんな中で希薄な者同志つながっていくというような人間性。関西弁が「はんなり」と気持ちいい映画なのだ。濃密すぎない関係。ただ姉弟の母親は迷惑だろうなとは思う。ただその過程(家庭)はもともと母が築いたものだった。

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