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グカ・ハンの言葉に入り込んだ日

『砂漠が街に入りこんだ日 』グカ・ハン (著), 原 正人 (翻訳)(単行本 – 2020)

フランス各誌が驚愕!「大事件」とまで評された、鮮烈なデビュー作。
こ の 距 離 が、 私 を 自 由 に し た。あらたな「越境」小説集。
出身地である韓国を離れ、渡仏した若き鋭才、グカ・ハン。
選びとったフランス語でこの小説を書くことが、自分のための、独立運動だった。
そこは幻想都市、ルオエス(LUOES)。人々は表情も言葉も失い、亡霊のように漂う。
「私」はそれらを遠巻きに眺め、流れに抗うように、移動している。
「反抗」「家出」「離脱」、その先にある「出会い」と「発見」。
居場所も手がかりも与えてはくれない世界で、ルールを知らないゲームの中を歩く、8人の「私」の物語。

「ルオエス」

ハン・ガンと名前が似ているから買ったのか。名前は、重要だ。逆から読むと混乱する。「ルオエス」(LUOES)は、ソウルの逆読みだそうである。ソウルの記憶がないので「ルオエス」の記憶もないのだが、マクドナルドの記憶はあるんだ。

マクドナルド的笑顔の中に彼女はいたという。その中に彼女を見つけられたら、そこが「ルオエス」ということだ。違う。ルオエスの逆さまの世界。けっしてマクドナル的笑顔でない彼女を思い出す必要がある。外は砂漠。冷房の店内は気持ちいいはず。そこで眠っている彼女の夢.........。

「雪」

つづいて「雪」.........。パラレル・ワールドだった。スクロールする画面は、雪の世界。違うのだ。雪の世界に遊んだ彼女を思い出すのだ。その無機質な断片から。三枚のスマホの中の写真。彼女はけっして、いいね、を付けなかったが、消去することも出来ない記憶。

「真珠」

そして「あなた」と呼びかけらた。勘違いしてはいけない。それは、あなたではないのだから。この物語を引き受けられる者が「あなた」と呼ばれて続きを読めるのだ。その覚悟がないものは、立ち去ったほうがいい。あなたの度量が試されるときがきた。

「家出」

チャンネル権のないTVを見ていたのは彼女だった。「のど自慢」が好きな母が独占しているのではなかった。続いて「お宝探偵団」。違う番組かもしれない。なんせTVは似たような番組ばかりだから。ただ幼い彼女はアニメをみたいのだ。猿が出ていくアニメを。それを思い出せない。

だから路上で迷子になる。祭りの日。いつもの帰り道を一人で帰る。家族を探しながら。家に着いても誰も戻ってない。静かすぎる家。川向うを見ていたら男が誘ってきた。お前は、その男かもしれない。彼女を部屋に招いたら、彼女を安心させるピアノ曲を聴かせるのだ。音楽が聴こえてきたら彼女の世界。

「真夏日」

真夏の高校時代。後ろ姿の彼女を見つめる。汗ばんだシャツに透けるブラジャーの紐。水色だったらいいなと考える。黒じゃないだろう?それを悟られクラス1の人気者女子に囃し立てられる。彼女は気づいていない。何故なら彼女は違う人を眺めていたから。異性じゃなかった。そうして彼女ことを忘れた。

「聴覚」

耳が聞こえないことを彼女が選んだとして、お前の声は昔から聞こえないのだから、白色ノイズという。難聴の彼女の世界を想像してみる。レコード盤の無音だけど針の傷跡。最初のではなく、音楽が終わった後での。そんな静けさ。消耗する針がすり減りながら繰り返す時間。傷を乗り越えられずに永遠と続く白色ノイズ。

「砂漠」も「雪」も白色ノイズ。記憶も.........。それを埋めるだけの言葉が欲しい..........。

「一度」

再会する分身はかつてのお前かもしれない。貧しすぎる男は、度々現れる文学上のゴーストだ。ゴーゴリのあの男。外套だけの貧しすぎる幽霊。分身する彼らが友だちだったことはあるだろうか?想起せ。彼らの姿を。

「放火狂」

塔の上で光輝く火なのだ。火を目指して集まるのはゴースト、それを追いかけていく。たどり着けないカフカのK..........、漂うウルフの絵描き........、想い起せ.........、ハン・ガンの脱げてしまった片方の靴.........、もう片方を探さなければ、消えてしまう前に..........、消されてしまう前に.........。



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