六条御息所と呪術廻戦
『窯変 源氏物語〈3〉 花宴 葵 賢木』橋本治(中公文庫)
『葵』は六条御息所の「もののけ(怨霊)」を神に仕える二つの神の巫女の母の戦いとして描いている。加茂と伊勢だ。加茂神社は京都・平安京の守護神という土地の神、斎院は桐壺帝が息子である朱雀帝に譲渡するので加茂と伊勢の斎院(宮)が代わるのである。
光源氏は桐壺帝の帝位に憧れ、自らは源氏名を授かり降格させられた天皇の子なのである。それ故に朱雀帝が天皇になることは、その母である大宮の左大臣家の天下となるのである(左大臣家、これも右大臣家となったりするので流動的なのだが要するに光源氏を邪魔だと思っている摂関家)。
その加茂の斎院が大宮の娘であり、伊勢の斎院が六条御息所(かつての帝の正妻)の娘なのである。六条御息所はそれでプライドが高いのだ。光源氏はそのプライドの高さと知性に惹かれるものがあったのかもしれない(十代のガキと元天皇の妻だ)。
そして、六条御息所は葵祭に光源氏を見物に行く。それを正妻である葵の上に邪魔されたのだ。その時の傷として和歌を残している。
その和歌を女房が光源氏に渡す。この「影」というのが六条御息所の怨念となっていくのである。
六条御息所が光源氏に送った歌に対して。
「自分一人が恋の深みに嵌って涙に昏れているというのなら、その相手はどのようなことになるのだ。一人よがりも大概にせよ!」と独白し、和歌を返している。
それ以降も葵の上が亡くなったお悔やみの和歌のやり取りで本音と建前が交差していく。それは六条御息所も伊勢の斎宮の母なのである。伊勢の母が賀茂神社ごときに蔑ろにされたのだ。伊勢は賀茂神社よりも伝統ある神だ。怒らないはずはない。それが怨霊となって葵の上に取り憑いたので、呪術廻戦のように成っていく。そこらの京の坊主ごときにお祓いは出来るはずはないのである。ただ光源氏が相対し、祓ったべきと言うのだろうか?むしろ殺られたのだったが夕霧を残したことで、痛み分けぐらいだろうか?
葵が死ぬことによって紫の上が正妻としての位置付けになるのだ。その前哨戦で源典侍との攻防戦があるのだ。取り憑かれたら六条御息所の怨霊より恐ろしいかもしれない。
そして葵の上が亡くなって若紫の床上げがあるのだ。ここから紫の上になる。
さらにその後六条御息所の住処の六条院まで光源氏は手に入れるのだから、恐ろしく闇の帝王ぶりだった。
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