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「東京都同情塔」よりも「虐殺器官」

『虐殺器官』伊藤計劃

9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

100分de名著ローティ『偶然性・アイロニー・連帯』で伊藤計劃『虐殺器官』が引用されていたので思い出すために過去ログから。

近未来の米国とその繁栄を支えている貧民国の関係は、911の中近東政策の延長上にあり、目の間の幸福だけしか見えない世界と虐殺が繰り返される世界。その裏側で暗躍する人物ジョン・ポール。彼を追う特殊部隊に所属している主人公。そして愛人の三角関係。ジョン・ポール。虐殺の生成文法。それを忍ばせて貧民国を虐殺へ導くプログラム。人間には潜在的にそれがある。愛の人ルツィア。人類の遺伝子は利他行為へ向かう。自己よりも他者のために生きる。殺人部隊の主人公は葛藤するが仕事を全うする。愛する人を亡くす喪失感。911と311の間で。
2012/04/10

ジョン・ポールはレノン&マッカートニーみたいだ。ローティで引用されたのは生成文法のところで、国家による文法が少数民族の言葉を虐殺し、それが民族間の対立になり、少数派に対してジェノサイドが起きるということを言っていた。それだ!と思った。虐殺というか排除されるのだ。例えば日本語が出来る出来ないというように(関東大震災の朝鮮人虐殺もその例として上がっていた)。今はパソコンが出来る出来ないで排除されていく。

もう少し詳しく述べるとルワンダでジェノサイドが起きたときは、人権という国連機関の言葉がまったく役に立たなかった。まずルワンダはベルギーの植民地化されツチ族とフツ族に分けられた。独立運動が起きて今度は少数派であるフツ族に対する恐怖が広がっていく。やがてツチ族の間で「ゴキブリ」という蔑称がフツ族に与えられるとラジオはフツ族虐殺を煽った言動や曲を流した。それがきっかけとして全国的にジェノサイド運動が広がっていく。

これはアフリカの開発途上国だから起きたのではなく、ボスニア戦争や最近のイスラエルのパレスチナ人虐殺まで世界的規模で拡大している。

それがコトバを排除していくプログラムといわれる生成文法なのだ。それはAI化による「東京同情塔」と同じシステムなのかもしれない。


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