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日本の歴史を生きた父親の記録

『生きて帰ってきた男――ある日本兵の戦争と戦後』小熊英二 (岩波新書) 

とある一人のシベリア抑留者がたどった人生。そこから戦後日本の姿と戦争体験の意味が浮き彫りになる。
内容説明
とある一人のシベリア抑留者がたどった軌跡から、戦前・戦中・戦後の日本の生活面様がよみがえる。戦争とは、平和とは、高度成長とは、いったい何だったのか。戦争体験は人々をどのように変えたのか。著者が自らの父・謙二(一九二五‐)の人生を通して、「生きられた二〇世紀の歴史」を描き出す。
目次
第1章 入営まで
第2章 収容所へ
第3章 シベリア
第4章 民主運動
第5章 流転生活
第6章 結核療養所
第7章 高度成長
第8章 戦争の記憶
第9章 戦後補償裁判

中国のユネスコ国際記憶遺産「南京大虐殺」が一方的だと日本が非難し、その日本の「シベリア抑留」がロシアから政治的だと非難される。なんだろうね。戦争の記憶は国家によって決められるべきではなし、それを遺産として食い潰すものでもない。語り継いでいくもの(戦争)を次の世代に伝えていくもの。多くの戦争体験者は実際には悲惨な経験を語ろうとはしないという。特に敗戦国では武勇伝がある者と違って。著者があとがきで書いているのは聞く側の働きかけが必要なのだという。自ら語ろうとするエリート層の兵士ではなく、むしろ落ちこぼれの最下層の兵隊の体験談は貴重である。

戦時中だけではなく、戦前から戦後の一人の男の個人的な歴史読み物として面白い。それだけではなく実際にあった事実をも照らしあわせて、例えばソ連収容所の日本人捕虜が死んだのは一割でドイツは三割だったとか。反ドイツ人感情があったとか。日本での米英の捕虜の死亡率が27%だから特別にシベリアの捕虜が悲惨だったということでもない(中国人捕虜とかもっと酷い話も伝わる)。

小熊英二のお父さんが戦争もの本で合格点を与えていたのが大岡昇平『俘虜記』。自身の捕虜体験もあったんだろうけど。他は英雄的すぎたりドラマチックに描かれていたりしてなんか違ったという。(2015.11.01)


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