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スマホがあれば映画監督になれるという話でもなかった

『ミッドナイト・トラベラー』(アメリカ/カタール/カナダ/イギリス/ 2019)

解説/あらすじ
2015年、映像作家のハッサン・ファジリはタリバンから死刑宣告を受ける。制作したドキュメンタリーが放送されると、タリバンはその内容に憤慨し、出演した男性を殺害。監督したハッサンにも危険が迫っていた。彼は、家族を守るため、アフガニスタンからヨーロッパまで5600kmの旅に、妻と2人の娘たちと出発することを決意する。そしてその旅を夫婦と娘の3台のスマートフォンで記録した。砂漠や平野、山を越え、荒野をさまよい辿りついた先で、難民保護を受けられずに苦労することも。ヨーロッパへの脱出は、想像以上に困難を極めていた。人としての尊厳を傷つけられるような境遇を経験しながらも、一家は旅の記録を続けていく。撮影することが、まだ生きているということを確認することであるかのように…。本作は、故郷を追われて難民となるとはどういうことか、その現実が観る者に容赦なく迫ってくるドキュメンタリーだ。

セルフ・ドキュメンタリーだから出来る長期撮影と逃亡生活の中でも悲惨な情景だけを映し出すのではなく、妻の力強さ(奥さんも映画監督で夫をそういう方向に導いたのは彼女の影響かも)や子供たちの明るさ、その土地々々での印象的な旅風景(ちょっと杜甫の漢詩とか想い出しました)。

その中で夫婦喧嘩もすれば、移民排斥運動の最中にあって恐怖に泣く子供たちや、警察に見つからないように国境付近を走る姿や野宿での厳しさ、難民キャンプに到着しても受け入れがなく廊下で寝たり、また収容所のようなところだったりする。子供たちには二度としたくない旅。

それでもカメラマンの夫である監督はいい絵を撮ろうと奮闘する。妻が初めて自転車に乗ってすっ転んでしまうシーンとか、雪を初めて知る子供たちとの雪合戦の様子とか。そんな中で下の子供が行方不明になるという事件が起きる。それでもカメラを回す自分自身に問うのだ。

もし娘が藪の中で発見されて妻が叫びながら駆けつけてきたらいい絵が撮れるだろう。しかし、それは出来ないことだ。幸い娘は発見され、そんなことがなかったように遊んでいる。いつか、娘と妻と自転車で公園を自由に走り回る絵を撮りたいと願うがそれは夢のまた夢。

これはまだアフガニスタンがタリバン政権になる前だったのだから、現実はより厳しくなっているのだ。ヨーロッパの受け入れも限界があるし。

映画『ミッドナイト・トラベラー』ファジリ監督関係者約50名の命を救うクラウドファンディング開始 https://unitedpeople.jp/midnight/archives/15686

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