見出し画像

日本映画の伝承を感じた映画

『せかいのおきく』(2023/ 日本)監督:阪本順治 出演:黒木華、 寛一郎、 池松壮亮、 眞木蔵人、 佐藤浩市、 石橋蓮司


おきく、22歳。声を失ったけれど、恋をした。 彼に伝えたい言葉がある。 だから今日、どこまでも歩いて会いに行く。
阪本順治が自身のオリジナル脚本を映画化。 舞台は江戸末期。寺子屋で子供たちに読み書きを教えている主人公おきく(黒木華)は、ある雨の日、厠〈寺所有の公衆便所〉のひさしの下で雨宿りをしていた紙屑拾いの中次(寛一郎)と、下肥買いの矢亮(池松壮亮)と出会う。武家育ちでありながら今は貧乏長屋で質素な生活を送るおきくと、古紙や糞尿を売り買いする最下層の仕事につく中次と矢亮。侘しく辛い人生を懸命に生きる三人はやがて心を通わせていくが、ある悲惨な出来事に巻き込まれたおきくは、喉を切られ、声を失ってしまうー。 日本映画製作チームと自然科学研究者が連携して、様々な時代の「良い日」に生きる人間の物語を「映画」で伝えていく『YOIHI PROJECT』第1作目。

特別なアクションや奇想天外な物語というわけじゃない。貧乏長屋に住む侍親娘とくみ取り屋の男二人の人情ドラマ。侍である父が江戸末期の維新によって殺されおきくも喉を斬られて声が出なくなる。そこだけが悲劇的だが、映画全体は人情喜劇であり、山中貞雄監督『人情紙風船』の趣がある。日本映画の伝統を継承したような映画だった。

それはモノクロ画面と長屋のセット風景にある。汲み取り屋ということで便所の糞を汲み出す仕事であるゆえにモノクロで良かったかなと。途中カラーになるがモノクロの方がリアリティがあるような感じだった。それと長屋のセットの作りが、溝口健二とかあの辺の映画の伝統なのかなとも思った。雨の情景とか黒澤風だし。日本映画の良き伝統を伺えるような映像美だった。

人情時代劇として阪本順治の狙いはその辺にあると思う。黒木華の「おきく」が主演だが役者のキャスティングが良かった。二人の男と女一人の組み合わせは青春映画の黄金率みたいなものだ。くみとり屋の先輩後輩の仲なのだが、池松壮亮の喜劇的なキャラと真面目な好青年の寛一郎(佐藤浩市の息子だった)、黒木華も堂々としたおきく(貫禄がある)で良かった。前半の佐藤浩市と石橋蓮司の演技の味わい。そして次世代の若手と上手くフュージョンしていたような映画で良かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?