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映画バス・ドゥヴォス『Here』『ゴースト・トロピック』特集

『ゴースト・トロピック』(2019年/ベルギー/84分)【監督】バス・ドゥヴォス 【キャスト】サーディア・ベンタイブ,マイケ・ネーヴィレ,ノーラ・ダリ,シュテファン・ゴタ,セドリック・ルヴエゾ


美しく繊細な映像で物語を紡ぎ、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭でも注目を集めるベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作。ブリュッセルの町を舞台に、最終電車で乗り越してしまった主人公が真夜中の町をさまよい、その中での思いがけない出会いがもたらす、心のぬくもりを描く。

清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目を覚ました彼女は、家に帰る手段を探すが、もはや徒歩で帰るしか方法はないことを知る。寒風吹きすさぶ町をさまよい始めた彼女だったが、その道中では予期せぬ人々との出会いもあり、小さな旅路はやがて遠回りをはじめる。

全編を通して舞台となる夜の街の風景を、粒子の荒い16ミリカメラで撮影することで、暗闇の中に柔らかさと温かみをもたらしている。2019年・第72回カンヌ国際映画祭の監督週間出品。

一本目『Here』は爆睡していて、まさに次の映画の予告編のように異世界に運んでくれる『ゴースト・トロピック』だった。

ベルギーの移民オバサンの話で『Here』よりはわかりやすいかったような。2つとも出会いがテーマなんだが、『Here』の方はちょっと分かりづらかったのは苔というテーマ性みたいなものだろうか(『Here』は俳句のようで観念的、『ゴースト・トロピック』は短歌のようで情緒的)。

こっちはイスラム系移民のオバサンが終電で居眠りして乗り越してしまい(あるあるパターンだが)、知らない夜の街を彷徨うという映画なのだ。最初に観光ツアーのポスターを眺めている。そして、このオバサンの夜のミステリー・ツアー(一人旅だが)と言えなくもない。

日常性から非日常世界へ劇的に変化する郊外の深夜の街は、夜勤している人や夜の街を彷徨うホームレスや若者しか知らない表情を見せる。彼女も移民労働者の掃除婦で日常でも朝早くから夜遅くまで勤務をするのだが、最初にその主人がいない部屋を映し出す。もぬけの殻の部屋。そうして深夜も彷徨ってしまうオバサンはまさに幽霊(ゴースト)のように街を彷徨うのだが。

一つは普段こういう移民は幽霊(見えない労働者)のように生活しているということがあるかもしれない。また深夜の街にはそうした幽霊のごとく人が漂っているのだった。その中でオバサンがそうした幽霊たちに出会う映画とも言えるかもしれない。

この映画が素晴らしいのはラストに観光地に切り替わるシーンが、そこにいたのはまさにオバサンの青春時代と感じさせるシーンだった。そこがノスタルジックでもあり、ファンタジーさがある。移民問題をこういう形で捉えた問題作かもしれない。


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