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入門書らしくない入門書

『現代詩入門』吉野弘

まざまな詩の魅力について語り、自作詩の舞台裏に読者を案内する。単なる作詩法・技術論を超えて、詩的感動の原点は何かを語ろうとする、第一級の現代詩入門。詩が分からないという人のための、待望の復刊。
目次
馬・言葉ほか
豊かにする
他者・欠如
ぶつかる
漢字喜遊曲
『神曲』地獄篇から
シェイクスピアの『ソネット詩集』から
リルケの詩から
嵯峨信之の詩から
茸の背丈〔ほか〕

詩の創作のヒント(エッセイ→詩)から詩の鑑賞(シェイクスピア、リルケ)、そして詩の添削(余計なお節介と書きながら)までしてしまう入門書。詩に興味があったり、書いてみたいと思う人はいい入門書だと思う。こういう詩の入門書は珍しいかもしれない。

吉野弘氏は初めて知る人のような気がする。名前は聞いたことがあるかもしれないが、読むのは初めてだ。

もう亡くなっている人だった。浜田省吾が吉野氏の詩からインスパイアされた歌を歌っているという。まずそれを聞こう。

その元のになった詩。歌はあまり感動しなかった。雪の名曲と言ったら、拓郎「外は白い雪の夜」イルカ「なごり雪」井上陽水「氷の世界」かな。最後は吹雪だけど。

詩だと味わい深い。

この本は吉野氏が感動した言葉(TVとか)から詩の言葉を導いていく方法でエッセイとその後に実際に創作した詩が掲載されている。

「馬・言葉ほか」はハングルの辞書から、同じ言葉でも単音の発音と長音発音で意味が違ってくるのを知って、その言葉の違いから詩を発想している。馬は単音発音でマル、言葉はマールといように日本語の意味が変化するのだ。そこから詩を紡ぎ出す。

韓国語で
馬のことをマルという
言葉は駆ける馬だった
熱い思いを伝えるための──。

吉野弘『現代詩入門』

それで5編の詩を創作したという。これは五行詩に応用できるかもと思ってまた五行詩を作り始めた。

「ぶつかる」という詩は盲人の人が就職して、最初の一日目は母が会社まで連れて行ってくれたのだが、その後は一人で毎日会社に通っている。それは非常に大変なことに思えたので、アナウンサーが質問したところ、彼女は「毎日ぶつかって行きますから」と答えたのだ。その言葉に衝撃を受けた吉野氏は、自分は毎日人を避けるようにして歩いていた(都会ではそういう人が多いだろう)。それが彼女は「ぶつかる」ことで安心するというのだった。そこに「ぶつかる」という彼女の言葉と自分のそれまで人生を思い巡って認識を新たにされて詩を書いたのである。エッセイから詩の言葉へ。

ダンテ『神曲』、シェイクスピア『ソネット集』、リルケの詩から吉野氏が鑑賞のポイントを教えてくれる。詩の読み方と作品紹介と。詩の鑑賞としては興味深かい。特にシェイクスピア『ソネット集』はシェイクスピアが同性愛と異性愛の相手に送った詩が、その相手によって発表されるというどんだけこの三角関係は奥深いのかと(闇を覗くようで)。

子供の詩からは子供の詩をやたら礼賛するのではなく(俳句の夏井いつきはそのタイプだが)、類想詩が多いことを指摘する(子供は独創的とかいうが)。それは先生や親が指導するのでそういう傾向になるのかと鋭い指摘だった。詩は誰のために書かれるのかということを問題としていて、入選作は子供が詩の言葉を必要としたから書いた作品を選んだ。それは大人に取って都合のいい社会ではなく意地悪爺さんがいたり、喧嘩早い母がいたりする世界の中で子供が祈る詩だった。その詩を特選にすることで家族に迷惑になるかもしれないと学校に問い合わせて入選にしたという。彼は障がい児でもあったのだ。

また他人の掲載された詩を勝手に添削したりする。詩の添削はなかなかないと思うが余計なお節介と言いながら本人の詩と添削した吉野氏の詩を上下に並べて掲載しているのである。これはいままでにないパターンかもしれない。俳句では良くあるが。添削というより参考にしてほしいという感じで、そしてそれを本人に送ったあとに本人が添削を参考にして書き直したりしていた。

いわゆる一般的な詩の入門書ではないが、読み込めばかなり面白いと思う。ワルツについて、三行詩という形式の方がいいだろうとか。ちょっと作ってみたい気にさせる。


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