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霧深き天皇制を出家する浮舟

『新源氏物語 霧ふかき宇治の恋(下)』田辺聖子

よみがえる悲恋。「源氏物語」を読むなら、名訳で。
名著『新源氏物語』刊行から12年の歳月をかけて完成させた、著者念願の続編。

大君亡きあと中の君への情念にもだえる薫の前に現れたのが、中の君の異腹の妹・浮舟であった。彼女は薫に惹かれる一方で、色好みの匂宮とも通じ、恋の板挟みに思い悩んだ末に霧ふかい宇治川に身を投げるが…。
極限の愛を余すところなく描いて、圧倒的な感動をよぶ田辺版・新源氏物語、堂々の完結編「宇治十帖」下巻。古典の凄さ、小説の面白さを、こころゆくまでお楽しみください。
【目次】
むぐら繁き雨の東屋の巻
いさよう波に行方知られぬ浮舟の巻
はかなく消えし恋の蜻蛉の巻
物思う人の手習の巻
ふみまよう夢の浮橋の巻

理想を追い求める恋人たち
解説:氷室冴子

人形(橋本治は形代と言っていた)だった浮舟がコトバ通りに形代として宇治川に身を投げ自害する。横川の僧都に助けられて生まれ変わった浮舟はもう人形ではなく、はっきり自分の意志を示す女性になっていた。それが出家という家族の縁を切らねば、家族の関係性も断ち切らなけれならないほどの強固な男尊女卑のシステムがあったのだ。薫が弟君を使いとして浮舟の元にやるのは、「空蝉」の喜劇であり、すでに家族の縁を切っている浮舟は薫の思惑通りにはならない存在だった。横川の僧都が妹尼の意見を聞かずに浮舟を出家させたのも仏に仕えるという意志のもとだ。仏教が天皇制の避難所になっているのかと思った。

匂宮のプレイボーイぶりは光源氏を彷彿させるが、光源氏はまず手紙を書いて(和歌を送って)から行為にいたすなどの作法があったという。それも強引になってはいたと思うが、匂宮はさらに酷いということか?

しかし薫の優柔不断さは時として匂宮の方が魅力的に感じてしまうこともあるようで、薫としてみればどうせよと言いたくなるだろうが、形代という身代わりということを捨てきれなかった。それは日本人が母性から離れられない民族だからだろうか?光源氏も母の面影というのが最初の契機になったのだし。母思いの息子たちの話ではあるが、そこに女を愛することにも母の影がちらついていく。薫の優柔不断さは女三の宮の不幸にあった。

その女三の宮も出家して、新たに浮舟が出家することによって物語の幕を閉じていく。


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