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都会の理想郷の裏に潜む村の掟

理想郷』(2022年/スペイン・フランス)監督:ロドリゴ・ソロゴイェン 出演:ドゥニ・メノーシェ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン


理想だと思ったその土地は地獄でした
フランス人夫婦アントワーヌとオルガはスローライフに夢を抱き、緑豊かな山岳地帯スペイン・ガリシア地方の小さな村に移住する。しかし、地元で生まれ育った村人たちは慢性的な貧困問題を抱えており、穏やかな暮らしとは言えない生活をおくっている。隣人兄弟シャンとロレンソは新参者であるフランス人夫婦をあからさまに歓迎しておらず、彼らに嫌がらせをするようになっていく。その後、兄弟の攻撃はエスカレート。夫婦が大事に育てていた農作物をダメにしてしまうなど、嫌がらせの範疇を超えていく。そんな中、村にとっては金銭的利益となる風力発電のプロジェクトをめぐり、村人と夫婦の意見が対立。敵対関係が激化していき……。
第35回東京国際映画祭で主要3冠獲得!
スペインを震撼させた実際の事件に基づく心理スリラー

昨年11月に開催された、第35回東京国際映画祭にて最優秀作品賞にあたる東京グランプリ(東京都知事賞)のほか、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞の主要3部門を獲得したスペイン・フランス合作映画。
都会を離れて田舎で過ごすスローライフに夢を抱き、スペインの山岳地帯ガリシア地方の小さな村に移住したフランス人夫婦ふたりが主人公となる本作は、2010年の発覚から裁判が終わるまでの8年間多くの新聞が報道するなど、スペイン全土に激震が走った実際の事件をベースに映画化した心理スリラーである。
監督・脚本を務めたのは、ヴェネチア国際映画祭で高く評価された前作『おもかげ』(19)でスペインの新たな才能として名を知らしめた、新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン。
主演のひとり、夫アントワーヌを演じるのは、『ジュリアン』(17)、『悪なき殺人』(19)、『苦い涙』(22)などで観客に強烈な印象を残した怪優ドゥニ・メノーシェ。妻オルガを演じるのは、『私は確信する』(18)、『ヴィーガンズ・ハム』(21)、『シャーク・ド・フランス』(22)など、コメディからシリアスまでこなす実力派俳優マリナ・フォイス。ふたり揃って話題作への出演が続いており、今フランスで最も勢いがあると言っても過言ではない旬の俳優である。

スペインのガリシア地方へ移住してきたフランス人夫婦が出会う災難なのだが、フランス人嫌悪の住民感情と理想郷の折り合いが付けずに事件と発展していくホラータッチのミステリーか?ミステリーなんだけど伏線を回収しないで最後は情(愛)に訴えるという変化球映画になっていた。

そうか、サム・ペキンパー『わらの犬』に比較されるというのは納得するが、レイプシーンとかありそうでなかった。夫がヤンキー的な兄弟と対立するのだが、それは夫がフランス的な理想(理性)主義なんだけど、共同体のナショナリズムを理解していなかった。夫が現代の隠しカメラとか使うのだが、ほとんど役立たずになっている。番犬からして、兄弟に慣れてしまっているのだからどうにもならない。

作風としてはアリ・アスター監督『ミッドサマー』のような不穏な土地の伝統みたいなものを感じた。こういう場所では現代の論理はあまり役には立たない。妻はそういうのを知っていたのか?妻の方が村の掟みたいなのをわかっているようで、地元住民とも仲良くなれるタイプのようだ。

ガリシア地区というのは、スペインでも独特な文化があるところでオープニングで裸馬をねじ伏せてしまう気性の荒い男たちが紹介される。またガリシア音楽も独特なものがある地方でもあった。

今話題の『ナポレオン』もそうだけど度々フランスによって侵略されたので、その恨みも根深いものがあるのだ。そして過疎地域であるゆえに風力発電の土地にしようとするのに反対するフランス人だから、保証金が欲しい兄弟からは余計に疎まれるという構図だった。要は頭のいい奴が勝手にやってきて村の慣習を勝手に壊しては困るという過疎地域なのだ。風力発電に対峙する男の姿はどことなく「ドン・キホーテー」を連想させた。

ほとんど夫と兄弟の諍いなのだが、妻は争うことを好まない。結局夫は兄弟に殺されてしまうのだが、隠しカメラとかやっているのに文明の機械が役に立たない。普通こうのは伏線を回収するためのアイテムだと思うが、ほとんどそれが回収していかないのだ。半分イライラするようなドラマなんだが。妻も夫が行方不明なのに日常生活か崩さず畑仕事などをしている。たまりかねて娘がやってきて、こんな村を離れろと言うのが母は言うことを聞かないのだ。夫が求めた理想の土地だからそこに骨を埋める決心をしているのだ。

妻のこの気持ちはなかなか理解できないけど女のプライドみたいなものかとも思える。逃げ出したら負けみたいな。そういう部分で肝っ玉母さんなんだが、それは兄弟のところにいる母親がやはりそんな感じだった。お痛が過ぎた息子はまともな社会ならそういう目に合うのだと妻が勝つのだった。夫が殺されているのだから勝ちということはないのだが、村の掟によって妻の永住が認められたという感じの映画だった。怒らせたら女の方が怖いという映画だったかな?

通常の展開ではないのに映画に引き込まれるのは役者の演技力と自然の美しさということだろうか?都会人はそういう美しさに憧れるがその裏にあるどろどろした人間関係もセットとなって特別な土地なのだろう。独自文化が強いところでは。



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