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紫式部の掌に蛍

『源氏物語 25 蛍 』(翻訳)与謝野晶子(Kindle版)

平安時代中期に紫式部によって創作された最古の長編小説を、与謝野晶子が生き生きと大胆に現代語に訳した決定版。全54帖の第25帖「蛍」。玉鬘は源氏の愛情から逃れるために、兵部卿の宮を慕っていると装う。しかし源氏は宮を呼び寄せ、几帳を上げて蛍を放ち、玉鬘がどんなに美しいかを見せつけた。父として接しなければと分かっていても、玉鬘への恋心を抑えられない源氏であった。そんな頃、内大臣は夢占い師から隠された子がいると聞かされ、源氏のもとにその娘がいるとも知らずに行方を探していた。

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光源氏のよこしまさが出た帖だろうか?色目を使い父親前とするのは玉鬘に嫌われるよなと。そして盗聴行為に意味不明な「蛍」のいたずら。この点滅は愛の行為といより危機感の現れのように光っただろうと思われる。頭の中将にすぐに返すべきなんだよな。玉鬘に未練があるからだろうから返さないのだと思うが。周りの女房たちも何も言えないのか?紫式部の小説論のようなものも伺われて、まんまとその面白さに惹かれてしまうのだが。

その物語論は、悪行をも書いてあるのは善も悪も読者の判断に委ね、それは仏教的な効用があるとするのだが、その物語の効用は時としてとんでもないものを与えもする。それはまだ判断力がない場合などはよくないと思っている光源氏であるのだが、紫式部はその魔力をも手にしているのだろう。

玉鬘に注意を向けてしまうのもそんなところだろう。この帖の展開は見事だと言わざる得ないと思うのは頭の中将が玉鬘の夢を見るんだよな。

蛍君の由来の和歌は。

(兵部卿)
鳴く声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消(け)つには消ゆるものかは
(玉鬘)
声はせで身をのみこがす蛍こそ言ふよりまさる思ひなるらめ

『源氏物語 25 蛍 』

晴れ晴れしい気持ちではなく、五月雨の季節なのである。その和歌を引用する紫式部のしたたかさ。

五月雨にもの思ひをれば時鳥夜深く鳴きていづちゆくらむ  (古今集・紀貫之)

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