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「百人一首」を読む



『百人一首の正体 』吉海直人(角川ソフィア– 2016)

百人一首を読み解けば、定家晩年の野望が見え隠れする――。

あなたは、本当の百人一首を知っていますか?

誰もが一度は聞いたことがある「小倉百人一首」。しかし、実はこの作品には研究者たちから多くの「謎」が指摘されている。
定家が選出したということの真偽、いつから「百人一首」と呼ばれることになったのか、
どのような基準で百首の歌が選ばれ果たして選ばれた歌はすべて秀歌ばかりなのか?

研究者でもあり、稀代の百人一首コレクターでもある著者が、
百人一首の「なぜ」を読み解き、今まで知らなかった百人一首の姿を浮き彫りにする!


「百人一首」の入門書としては最初に読む本ではなくて、2冊目の『百人一首の招待』として本書の位置づけなのだが、それでは最初の入門書は何がいいのだろう。むしろ本ではなくて「百人一首かるた」ではないか?定家の平安の雅の世界を百人の和歌で今日まで受け継いできた。もとは「小倉庄色紙和歌」として和歌の他に似絵(歌人の似顔絵)を付けたのが「百人一首」の始まりなのだという。源流よりもそれが拡散していく「百人一首」の魅力が和歌と絵にある。和歌の文字も習字の手本として、女子教育の一環として役立てられたこともあったのだという。

現代の競技かるたは女子教育以前のスポーツとなっているのだが、昔は仮名遣いの手本として優雅に遊びながら学んでいたのだ。ただ歴史的仮名遣いを国が現代仮名遣いにしたことでいろいろと問題が出てきたという。京都と東京のかるた協会の対立とかのエピソードが面白い。「百人一首」は『万葉集』や『古今集』勅撰和歌集ではない。定家が目指したのは和歌によって(雅な)歴史を構築した「文学空間」なのだろう。天智天皇から始まる天皇の歴史が順徳院で終わる歴史。そして伝説上の歌人から女房たちの時代、都を追われ世捨て人になった坊主の時代。

百人一首の坊主の和歌が恋の歌もあるのは坊主に成る前に作ったものだった。坊主のくせに煩悩を歌うのかと思ったが最後の役職名が出るようだ。そういえば母のよろめき和歌もあったりして、実際に70過ぎたお婆さんがゲームとして恋の歌を作った和歌もあるのだ。吉海直人『百人一首の正体』は「百人一首」のエピソードが面白く、本で読む入門書としてはこれはお勧め。後半は一句づつの丁寧な解説もありこの正月に「百人一首」をやりたい人にもお勧め本。(2020/12/17)

『百人一首 うたものがたり 』水原紫苑(講談社現代新書– 2021)

多くの日本人にとって、もっともなじみのある和歌集といえば『百人一首』。
千年の時を超えて愛されてきた歌集を、現代を代表する歌人・水原紫苑が中世と現代を行き来し、一首ごとにやさしく丁寧にときほぐします。
初学者も大人も楽しめる100のストーリーで、短歌がぐっと親しいものになります。

表紙の明るそうな少女漫画に騙されてはいけない。かなり情念系の憑依タイプの解説で闇が深いのだ。歌人でもあるしね。百人一首だけではなく、それに纏わる歌や文学(能や歌舞伎も)紹介していて、歌人自ら歌の世界にどっぷり潜入していくタイプ。「個人的には歌は色香、いいかえればエロスが命だと思う」という言葉にあるようにどこまでも歌(言霊)に寄り添っていく作者のあり方は、黄泉(詠み=読み)と死者の世界に繋がる。さらにその読みに於いて選者である藤原定家との三角関係(本妻から横どる愛人のような)。初心者よりは二冊目にどうぞ。(2021/04/29)

『藤原定家 『明月記』の世界 』村井康彦(岩波新書– 2020)

宮廷歌人の藤原定家の日記だが、それほど興味あるわけでもなかった。ただ堀田善衛『定家明月記私抄』のサブテキストぐらいのつもりで読もうと思ったのだが、なんかエリート高級官僚が上皇からあれこれ言われて不平不満を書いているような。堀田善衛が藤原定家 『明月記』に入れ込んだのは、戦乱の世にありながらわが文学を突き通したから。「紅旗征戎吾事に非ず」。承久の変で内裏が焼けて書物も焼失したが、定家は和歌集などを書写した。そして『源氏物語』も書写させた。そして我々がそうした古典を読めるのも定家の功績。

宮廷歌人の藤原定家の日記だが、それほど興味あるわけでもなかった。ただ堀田善衛『定家明月記私抄』のサブテキストぐらいのつもりで読もうと思ったのだが、なんかエリート高級官僚が上皇からあれこれ言われて不平不満を書いているような。堀田善衛が藤原定家 『明月記』に入れ込んだのは、戦乱の世にありながらわが文学を突き通したから。「紅旗征戎吾事に非ず」。承久の変で内裏が焼けて書物も焼失したが、定家は和歌集などを書写した。そして『源氏物語』も書写させた。そして我々がそうした古典を読めるのも定家の功績。

『明月記』は親ばかの息子の話ばかりなり。そこだけ選んでいるのもあるのだろうけど、先妻の息子には冷たくて後妻の息子には溺愛しているが和歌はどちらもだめだったようだ(定家判断によるから一概には言えない)。でも出世はした(公家になった)。弟の出世が著しかったので長男は出家したのだった。娘も出家した。親父に問題があったのか?晩年は嵯峨に引っ込み(隠遁生活)、『百人一首』などを編纂したので後世にとってはやはりありがたき人なのだろう。(2021/01/26)

『百人一首がよくわかる』橋本治 (単行本 – 2016)

和歌のオールタイム・ベスト100が一冊でわかる!
中学生から誰でもわかる、すらすら読める!橋本治の名訳で、百人一首がどこよりもわかりやすくて面白い現代語訳になった。

「ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれなゐに水くくるとは」→→→「ミラクルな 神代にもない 竜田川 こんな真っ赤に 水を染めるか!」

「花の色は うつりにけりな いたづらに 我が身世にふるながめせしまに」→→→「花の色は 変わっちゃったわ だらだらと ひとりでぼんやり してるあいだに」

「春の夜の 夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」→→→「春の夜の夢みたいだわ 腕枕 それで噂になったらごめんね」

一首一首に対応する橋本治氏による斬新な桃尻現代語訳とシンプルかつ深い解説で、百人一首の内容と成り立ちが一目瞭然!最も面白くわかりやすい百人一首解説本の決定版です。

橋本治の現代語訳がいい。きっちり歌になっている。最初の天智天皇は「秋の田の借り入れ小屋はぼろぼろで私の袖は濡れっぱなしさ」。小野小町は「花の色は変わちゃったわ だらだらとひとりぼんやりしてるあいだに」。そして、百人一首がそれぞれペアになっているというのが彗眼です。美女とペアになる伝説上の僧侶歌人、蝉丸は「これかいな 行くやつ帰るの 別れるやつ 知るのも知らぬも逢う 坂の関」だみ声が聴こえてくる。

文屋朝康の「白露に風が吹いてる 秋の野はパッと散る首飾りだよ」と対にするのは右近の「忘れることも思わず誓ったわ あなたが無事にいるといいわね」と火曜サスペンスだ。鎌倉時代になって男だらけの武士の世になると女性の和歌も無くなり、無常観の人生訓ばかりになってしまう。そこで恋歌を定家が女性になりすまして歌った「来ぬ人を松帆の浦は夕凪ね 藻塩を焼くわ私もジリジリ」。西行の「『泣けとでも言うのか月は』と思っちゃう 文句の多い俺の涙さ」。ニヒルで笑える。(2021/01/05)

『百人一首解剖図鑑』谷知子(単行本 – 2020)

天才歌人・藤原定家はなぜこの100人・100首を選んだのか

『百人一首』を通じて百種類の心にふれていると、
感情が自然と形づくられていく感覚を覚えることがある。
しかも、教えられるというのではなく、
ゆったりとある方向に誘われていくのだ。
これは、あくまでも芸術の力で、
絵画や音楽によって心が形づくられたり、
感動で涙がこぼれるという経験に近い(本書はじめにより)

本書は、100首の和歌、上の句・下の句それぞれを完全図解。
見るだけで歌に込められた思いを理解できます。
さらに100人が生きた飛鳥・奈良・平安・鎌倉時代の
歴史と暮らしを学べます。

『百人一首』のみならず、和歌や古典文学の入門書と
してもオススメの1冊です。

橋本治『百人一首がよくわかる』と一緒に読んでいたのがこの本。谷知子は大学の先生で、以前『和歌文学の基礎知識』が面白かったので。イラストと繊細な解説で「百人一首」だけではなく、「古典王朝文学」の世界が知ることが出来るが、赤文字の欄外は小さすぎて読みにくかった。(2021/04/05)

映画『ちはやふる』

『ユリイカ2013年1月臨時増刊号 特集=百人一首 三十一文字にこめられた想い』


『百人一首という感情』最果タヒ

『百人一首と遊ぶ 一人百首』上野正比古

『百人一首』をカルタだけじゃなく、同じテーマとして詠んでみるという一人歌合的な遊び。著者の知識は凄いと思うがこういう遊びによって培われてきたのだと思う。和歌の世界から短歌の世界へ。いろいろ学ぶことも多いです。


『百人一首』から本歌取り


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