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愛(アフローディア)が負けたドラマは何を語っているのか

『トロイ伝説 ある都市の陥落』(英、米/2018)

預言が今、現実に。パリスが出生地であるトロイに戻り、メネラオス王の妻であるスパルタのヘレンに恋をしたことで、ギリシャとトロイの戦争を引き起こす。愛、戦争、陰謀、裏切り... 全てを兼ね備えたアクション・スペクタクル大作!

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一応、人物相関図を上げておきました。ただはこの人物相関図は無視していいと思う。まず物語の中に入り込むこと。重要人物は限られている。『源氏物語』を相関図を見ながら読む人は少ないと思う。歴史ドラマは、誰が中心なのか把握することだ。

Netflixの歴史ドラマは、面白くてよく観る。歴史の勉強にもなるし、『オスマン帝国』や『マルコ・ポーロ』などそれまで西欧史中心のフィクションが多かったのだが、逆の視点から描かれていて面白い。

『トロイ伝説 ある都市の陥落』は、それほどひねった歴史ドラマではないのだが、ギリシア神話の「トロイの陥落」を丁寧に描いている。映画ではブラッド・ピットがアキレスを演じたのだが、ここでは黒人だった。

アキレスはギリシア側の英雄なのだが、ドラマはトロイ側の視点からも描いていて、ホメロス『イリアス』や『オデュッセウス』を読んで面白いと思ったこともあり、ドラマに感動したらぜひそれらの本を読むとさらに理解が深まるかも。ホメロスは、伝説の詩人の叙事詩だから読みにくいこともあるが、物語のストーリーを知っていると興味深く読める。

それでも登場人物が多く、トロイ側、ギリシア側、神々、これが現代のドラマだとわかりにくいのだが人間の運命は神々が操っているという設定。第一話でほとんどの人が混乱するのは、この神々の設定だろうと思う。

トロイア戦争——ゼウスの策略で絶世の美女ヘレネをめぐって英雄たちが大戦争! https://ontomo-mag.com/article/column/myth06-trojan-war/

トロイの王子パリスが、神々の賭け対象になって、ゼウスの妻ヘーラーとアテーナとアフローディアは、それぞれ「権力」と「知恵」と「美」の神で、アフローディア(愛)を選んだから恋におちて、トロイを破滅させる運命になる。それぞれの神々の操り人形なわけだが、最初に自由に選択できるパリスとスパルタ王の美貌の妻ヘレンの駆け落ち不倫(スパルタ側から見て)が原因になる。だからアフローディア(愛)のドラマとしてはパリス(この名前は羊飼いで育てられた頃の名で、のちのトロイの武将となって国を背負うときはアレクサンダー)とヘレンの恋愛悲劇として見ることが出来る。

まずパリスとヘレンは、重要人物だから絶対に覚えて、注目すれば国を超えての恋愛劇が楽しめると思う。ただ、そこに戦争というバトルが絡んでくるので混乱するのだが、個人の恋愛か共同体への祖国愛(家族愛)かということが大前提のドラマは、普遍のテーマだから。そしてヘレンは政略結婚によって自由恋愛ではなく、奴隷妻として選ばれたに過ぎない。その点でも女性の自由恋愛を描いたドラマではあるのだ。

ただ戦争ドラマであり政治ドラマでもあるから混乱するのだが、トロイ側はパリスとその両親(王)とトロイの愛されキャラ、ヘクトル家族とカッサンドラは、トロイ王の娘で預言者なのだがその予言を信じてもらえない、カッサンドラの悲劇は、「オオカミ少年」のストーリーとすれば、トロイを蹂躙するオオカミたちがギリシア軍で納得いく。

ギリシア側は、ギリシア軍の総大将、アガメムノン。第2話で娘を神の生贄として捧げるシーンが、唯一人間らしく(父親)描かれているのだが、それ以降は悪魔のような独裁者。顔で悪人とすぐわかる。美男ではない。アガメムノンの弟はスパルタ王、メネラオス。直接の原因となったヘレンの夫なわけだが、トロイ戦争では大したことはしていない。このドラマでは雑魚キャラでいいと思う。

ギリシア側で一番注目しなければならないのは、知将のオデュッセウスと闘将のアキレスの二人。この二人がギリシア側の主役と言ってもいい。だからホメロスの叙事詩で『イリアス』ではアキレスが『オデュッセウス』ではオデュッセウスが叙事詩として描かれることになる。

戦争物語ではアキレス中心に見ていくと理解が早いです。映画『トロイ』でもブラッド・ピッドが主役だったわけですから。ただこのドラマでは黒人だということに注意。闘将であり、アガメムノンとは捕虜の女を巡って対立、戦争ボイコットをする。それがギリシア側がなかなかトロイを攻めらきれない理由なのです。

一方知将と言われるオデュッセウスは、「トロイの木馬」作戦を指揮した軍師なわけです。アガメムノンの忠実ではあるけど、葛藤する武将として描かれるわけです。自分の意志で戦争を殺るか止めるか決定するアキレスとの対比も注意が必要。そのアキレスの戦争参加が一つのクライマックスとなる。

そこでトロイの英雄愛されキャラのヘクトルです。ヘクトルはパリスと対称的に国や家族を守ろうとする理想の武将なわけです。王が父でもある。パリスはトロイ滅亡の予言のために捨てた子供です。それで羊飼に育てられた為に前半は、自由意志で動く。自分でアフローディア(愛)を選んだ自負がある。しかし色男の格言通り力はない。最弱キャラなんですが、彼の武将としての成長物語としても読める。ただそれは運命に従うということで、反逆のヒーローではなくなる。

ヘクトルですね。パリスと正反対と思えばいいわけです。そのヘクトルの決闘のライバルがアキレスなわけです。トロイ戦争最強の戦士なアキレスに立ち向かわなければならないトロイの愛されキャラ。一番好きかもしれない。悲劇性が一番高い。悲劇のヒーロー。アキレスが戦争放棄した為に愛人(男)パンクロスがアキレスの兜を被って部隊を鼓舞して、アキレスの反対構わずトロイ戦争に参加する。はっきり言ってパンクロスはここだけの重要人物です。アキレスの代わりにヘクトルに殺される。それに怒ったアキレスがヘクトルと決闘するのです。ここが前半一番の見どころなのです。

もうアキレスの「ヘクトール」と呼びかける声が耳から離れない。トロイの家族や王や住民を守るため、城壁の外に出ていかざる得ない。それも子供を産んだばかりなのだから、悲劇的要素が倍加される。このドラマが親子劇でもある。だからややっこしい。ただ王と王妃に愛されたトロイ側の最重要人物で、パリスとヘクトルのトロイの息子のドラマでもある。

その前に、パリスは相手のスパルタ王の元夫と決闘して負ける。愛を賭けての決闘なのに惨めです。何よりも惨めなのは、決闘に負けて逃亡するのです。エヴァのシンジくんだって「逃げちゃ駄目だ」と踏みとどまるのに、逃げてしまった。そして自殺する。まったく駄目キャラなんですが、運だけはいいというかアフローディアに守られているから、死ねなかった。その彼を救ったのがアマゾネス軍団。「ワンダーウーマン」の戦闘軍団がトロイ戦争に花を添える。それまで女性は政略結婚や戦争の戦利品でしかなかったのに闘う女性軍団が出てくるわけです。

アマゾネス軍団によって生まれ変わったとするパリスが予言は無効だと信じてしまう。この予言というのがドラマでもポイントになる。神々に運命を操られている。だから、前半のパリスとヘレンの自由恋愛は、自由意志を持った弱き人間というドラマになっている。神々から力を与えられない。アフローディアが例外なわけですが、彼女も運命の女神ではない。愛の女神だということ。アマゾネス軍団は愛よりも戦闘集団だから過激なフェミニズムを暗示しているのかもしれない。ただ武力では最強の男アキレスには敵わない。

無敵なアキレスなわけだが、弱点が一箇所ある。有名な「アキレス腱」の元になった話。このアキレスが最弱のパリス(ここではトロイの武将としてのアレクサンダー)の弓矢によって討ち死にする。ここも面白いシーン。ただアキレスがここで死んでしまうから、ギリシア軍もピンチになる。そこでオデュッセウスの登場。

ただこのドラマではいまいちオデュッセウスは脇役キャラですね。結局はアガメムノンに逆らえずトロイ側にとっても憎むべき敵将でした。ただそんなオデュッセウスは戦争をしながら葛藤する。それだけなんだが。結局最後には呪いを被ってしまう。トロイの英雄の息子(赤ん坊)を殺さなければならないのだから。このあたりはアメリカのアフガンやイラク戦争と重なるように作られている。目も覆いたくなるようなトロイの住民虐殺シーン。

あと味も悪いドラマだった。一番の理由はヘレンがトロイの裏切り者として描かれるからでしょうか。前半は愛の亡命者だったのが、お荷物移民になってしまう。そんなところも現代を言い表しているのかと。結果論から見ればヘレンは悪女なんだけど、一番の犠牲者でもある。


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