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消えてしまったのは唐田えりかだったのか?

『寝ても覚めても』(2018年製作/119分/G/日本・フランス合作)監督:濱口竜介 出演:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ

解説
4人の女性の日常と友情を5時間を越える長尺で丁寧に描き、ロカルノ、ナントなど、数々の国際映画祭で主要賞を受賞した「ハッピーアワー」で注目された濱口竜介監督の商業映画デビュー作。第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。芥川賞作家・柴崎友香の同名恋愛小説を東出昌大、唐田えりかの主演により映画化。大阪に暮らす21歳の朝子は、麦(ばく)と出会い、運命的な恋に落ちるが、ある日、麦は朝子の前から忽然と姿を消す。2年後、大阪から東京に引っ越した朝子は麦とそっくりな顔の亮平と出会う。麦のことを忘れることができない朝子は亮平を避けようとするが、そんな朝子に亮平は好意を抱く。そして、朝子も戸惑いながらも亮平に惹かれていく。東出が麦と亮平の2役、唐田が朝子を演じる。

先に原作である島崎友香『寝ても覚めても』を読んだが、いまいちな感じだった。

映画を観た後にその感想は覆されるのだが、それはこの題名に秘密があった。

君や来し我や行きけむ思ほえず夢か現か寝てか覚めてか  詠み人知らず

『古今集 恋三』

『古今集 恋三』では詠み人知らずになっているが、『伊勢物語 六十九段』での業平と恋の相手斎宮との相聞歌で歌われた歌で「君(業平)と付き合っていたとも思えず夢か現か寝ていたのか目覚めていたのか」という意味の歌で、それに対して、業平は返歌する。

かきくらす心の闇にまどひにき夢うつつとはこよひ定めよ  在原業平

『古今集 恋三』

「真っ暗な心の闇に迷って、私にもわからない。夢か現実かは、今夜逢ってみましょう」。

業平はそう行って狩りにでたまま消息不明。まさに『寝ても覚めても』のストーリーそのものであるのだ。

男目線で観ると朝子はとんでもない女なんだけど、逆の立場で昔の彼女がタレントになって「一緒に逃げて」と言われたら世話女房に悪いと思っても止められないだろう、そう思うと不安定な朝子の行動は納得できる。でも許せない、という映画。

原作よりもいいのではと思ったのは、東日本大震災で東京で電車が止まって、歩いて帰ろうとするときに朝子と亮平が出会って恋に陥る。映画『君の名は』(アニメじゃない方)で空襲に出会って恋に落ちるシーンを思い出した(アニメは『古今集』の小野小町の和歌から着想を得たとか)。

それと麦(バク)は夢を食うバクでもあり、彼岸性(あっち側)の人だと思うと納得。大阪と北海道というのも彼岸性を暗示している。天の川を観ながら洪水になる予感とか。

映画の後に実際に不倫スキャンダルで叩かれてしまうのだが、まさか映画をなぞったのでもあるまい。まあ役に入れ込んでその登場人物になりきってしまうことはあるかもしれない。それぐらいに、唐田えりかの演技は良かったのだ。この映画だけで消えてしまうには惜しい人だ。東出昌大は徐々に復活しているのに。


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