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役者の演技に注目した映画

『愛する人に伝える言葉』(2021/フランス)監督エマニュエル・ベルコ 出演カトリーヌ・ドヌーヴ/ブノワ・マジメル/セシル・ド・フランス/ガブリエル・サラ

解説/あらすじ
バンジャマンは人生半ばで膵臓癌を宣告され、母のクリスタルとともに、業界でも名医として知られるドクター・エデを訪れる。二人は彼に一縷の希望を託すのだが、エデはステージ4の膵臓癌は治せないと率直に告げる。ショックのあまり自暴自棄になるバンジャマンにエデは、病状の緩和による生活の質を維持するために化学療法を提案し、「一緒に進みましょう」と励ます。ドクター・エデの助けを借りて、クリスタルは息子の最期を出来る限り気丈に見守ることを心に決めるのだが…。

coco映画レビュアー

テーマは終末医療の映画なのだが、一番感動したのは、演劇学校の生徒たちが別れのシーンを演じるシーン。実際にはプロの俳優だと思うが、演技の練習風景だとわかっているのに泣けてしまうのだ。感情が演技者の中からほとばしる。それは誰の役を演じているというのではなく、自分自身の経験上の中からでてくる虚構性なのである。

例えば実際の臨終のシーンとか何回か経験しているのだがけっこう演技的な部分が逆にあるのだと思う。それはかつて見た映画やドラマのイメージを現実で辿ってしまうということにあるのか?泣きの演技にしても、ただ号泣すれば観客が惹きつけられるかと言うとそうでもない。かえって客観的に眺めてしまうものがある。演技というもの、それは誰かを演じるのではなく、自分の中のものを演じるのだ。そのことが演劇学校の演技指導のシーンで感じたこと。

そのなかで演劇の先生を演じたブノワ・マジメルは、数々の賞を受賞しているだけあって、がん患者がやせ衰えるところを見事に演じきる。最初は我儘な患者に過ぎないと思っていたのだが。彼が辿ったやり切れなさや未練を上手く伝えていると思った。演出が上手いのは、演劇学校のシーンも映し、病室での週末医療のシーンで患者を楽しませる為の音楽とかタンゴの踊りを見せる(芸術に触れて病であることを一瞬でも忘れるということか)シーンが素晴らしかった。

終末医療の暗さよりも人生を楽しむという明るさを感じられた映画だった。

カトリーヌ・ドヌーヴは、若い時の見る影もないのだが、今の方が演技は充実しているかもしれない。嫌われどころの母親を上手く演じている。


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