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吉田桃子(2021)『夜明けをつれてくる犬』講談社

装幀がすてきで、おもわず手に取ってしまった。
美咲と愛犬のレオン。
美咲がレオンを大切におもうきもち、美咲に寄り添うレオンのやさしさがしずかに伝わってくる。

愛犬のレオンを亡くしてから、ずっと暗闇に取り残されたようなきもちでいる美咲。
家族もみんなレオンがすきだったはずなのに、ふつうに生活している様子が余計にさみしかった。

美咲は、おもうことはあっても、のどにビー玉がつまったようになり、うまくはなすことができなかった。
友だちもおらず、レオンがいなくなってからは、ほんとうにひとりぼっちになってしまったようだった。

ある日、通学路にお花屋さんを見つける。
そのお花屋さんには、レオンがいた。
その犬は、ビリーという名前で、お花屋さんのお姉さんと暮らしている犬だ。
美咲は、またレオンと一緒に暮らしたい、とおもう。
お花屋さんのお姉さんと、レオンのはなしがしたいけれど、やはり声はうまく出せない。
それでも、お姉さんはお店にやってくる美咲にやさしく接してくれた。

そして、とうとう美咲はお姉さんに、レオンがほしい、と伝える。
しかし、美咲がレオンをたいせつにおもうように、お姉さんもビリーのことをたいせつにおもっている。
美咲は、じぶんがレオンのことを考えるあまり、お姉さんのきもちを考えてこなかったことが急に恥ずかしくなった。

お姉さんとの出会いにより、レオンがいなくなってから目をそむけてきた世界へすこしずつ歩いて行けるようになる。

家族のすすめもあり、犬の保護施設に行き、新しく家族に迎える犬とも出会う。

たいせつなものを失ったとき、そのかなしみをどう乗り越えていくか、
乗り越えたくなどないのだけれど、それでもじぶんは生きていかなければならないのだ。
そのことをしずかに伝えてくれる物語。

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