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シュウマイへの道

ここ最近、食に関する記事しか書いていない事に気がつきました。

私の今の暮らしで、ドラマティックな物語が生まれるとすれば食か仕事か、そんな選択肢しかないからかもしれません。
いや、明日お風呂でとんでもないドラマが生まれるかも知れない。生まれないかもしれない。生まれないと思う。


noteを始めてから、ファンになった、料理家の今井真実さんという方がいらっしゃいます。

今井さんのレシピはどれも日常の中に馴染みながら、とても存在感のあるものばかり。そして作り方を見ると、何だか私でもできちゃいそう、と思わせてくれる懐の広さ(例えば、この材料はなかったらなくてもいい、と言った余白)があるような気がして、私にとってはすこぶる魅力的です。

先日、今井さんのnoteでシュウマイが紹介されていて、私はとてもそれに惹かれました。(勝手にご紹介させていただきます…)

よし、トライしてみようか、と。

しかし、私はこれまでシュウマイを作ったことがなく、また、蒸し器が家にありません。でも、どうしてもその日に作りたい気持ちがおさまらず、ホームセンターへ行き蒸し器を買って、シュウマイを作る事に決めました。

近所のホームセンターはとても広く、2Fが日用品売り場になっています。
大きな案内サインを見ながら、キッチン用品の棚へと向かいました。

鍋がずらっと並んでいる棚に行くと、おじいさんとおばあさんが仲良く商品を選んでいました。

「こっちの方が持ちやすいで」
「ほんまやなぁ、でも、高いなぁ」
「お母さんこれどうや、軽いやろ」
「ほんまやなぁ、これ、良いなぁ」

私は老夫婦の後ろを通りすぎ、その少し先にある蒸し物鍋のところへと向かいました。

26センチ、ちょっと大きすぎるかな…。
18センチ、小さい気もするけど…。

選択肢は2つ。
いずれも、鍋、蓋、蒸し目皿、茹で上げざる、がセットになっています。

私は少し悩み、18センチの鍋にしました。

箱に入ったものが上の棚に置かれていましたので、少し背伸びをしてその箱をヨイショとおろしました。


織田裕二が言う通り、事件は現場で起きました。


キュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーン

キャイ〜ン!!!

けたたましく鳴り響く警告音。

スズメバチの黒と黄色の縞模様と同レベルで【絶対的な警告】をメッセージするその音に、私はのけぞりかえりました。

な、な、ななななななななな、何なん!?
藤井風もびっくりの何なんwです。

しかしパニックになりながらも、直感的に気づきました。私は、棚から箱をおろす際に、箱の手前についていた万引き防止の自鳴タグを少し強めに引っ張ってしまったのです。

ヤバいよヤバいよー!早く店員さんに知らせないと!

藤井風からの出川哲朗。

左を振り向くと先ほどまでニコニコと買い物をしていた老夫婦が、まるで罪人を見るような目で、私を見ていました。『あの人もしかして…』そんな心の声が聞こえてきます。右を振り向くと、若いカップルが同じような目で、私の方を見ていました。

キュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーンキュイーン

一体何デシベルやねんこの音。
私は、鳴り止むつもりゼロのその自鳴タグがついた箱入り鍋を小脇に抱え、キッチン用品の棚列から勢いよくメイン通路に飛び出しました。

そこにはレジ待ちの大行列ができていて、全員が、本当にそこにいる全員が、私を見ていました。

その瞬間、私はスポットライトを浴びました。

過去、これほどまでに人から注目される事があったでしょうか。
地球の片隅で細々と生きていた私が、今このホームセンターにいる多くの人々から『あの人、何しでかしたん…?』という視線を投げかけられているのです。

その姿はともすれば、ヤバい時限爆弾的な何かを抱えながら、必死でどこか投げ捨てられる場所を探し、身の安全を確保しようとしている人間にも見えたかもしれません。

動くエマージェンシーコールと化した私は、とにかく店員さんを探さねばと無我夢中で走り回りました。
不幸中の不幸が運の尽き、その日は休日かつおそらく一番人が多い時間帯と思われる混雑ぶり。店員さんが見つからず、知らないおじさんが店員さんに見えてくる始末です。どうかあなた、店員さんであってくれ。

店の端から端まで警告音を鳴り響かせ、すれ違う人々にドン引きされながら、ようやく照明器具のところで店員さんに出会えた時の喜びは、何物にも変えがたいものでした。

めちゃくちゃ、本当に、会いたかった!!

慌てて説明しておわびしたところ、慣れてらっしゃるのか「ああ、わかりました、お預かりします」とそっけなく、その時限爆弾を引き取ってくれました。

命びろえた。

辛かった。

私はヨタヨタしながら元の棚へ戻り、今度は絶対に自鳴タグは触らないぞという意気込みで、ゆっくりと在庫の鍋を取り、長蛇のレジ待ち列の最後尾に並びました。

そして、無事に蒸し物鍋を手に入れた後食材を買い、家に帰って24個のシュウマイを作りました。材料は30個分だったので、かなり詰め込んだ形です。

苦労して手に入れた鍋に野菜を敷き、その上に乗せて10分ほど蒸すと、驚くほどジューシーなシュウマイが完成しました。

ほとほと疲れていましたが、人生初の手作りシュウマイはとっても美味で、やはり今井さんのレシピが素晴らしい事を実感しました。


#日記 , #エッセイ , #今井真実さん , #シュウマイ , #自鳴タグ , #ホームセンター , #蒸し器 , #料理 , #グルメ








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