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こころおどるホットプレート

2020年、食生活が一変しました。

それまでは、昼は会社の仲間と食べ、夜はたまに友達と食事へ行き、ほどよく外食と家食のバランスがとれていたのですが、今では朝から晩までほとんどonly lonely家食。これほどまで誰かと食べる機会が少なくなると、もはや修行の域に達している今日この頃です。

あまり料理が得意ではないのですが、作る事も食べる事も大好きなので、飽きないように工夫を凝らしながら、それなりに家食を楽しんできました。

しかし、こうも続くといよいよそれも限界です。どうしたもんかと悩んでいたところ、最近ふと目にした広告にホットプレートが紹介されていました。

ほう。ええやん。

ホットプレートといえば家族や友人とそれを囲みながら、ありとあらゆる食材を見るも無残な姿に目の前で焼き尽くす、それはもう恐ろしい調理家電ではないですか。違いますか?

これまであまり購入を検討した事がなかったのですが、ひとりでホットプレートを楽しむのもアリなんじゃないか、と思いついたのです。

さっそくAmazonでチェックすると、高いものから安いものまでずらりとラインナップされています。BRUNOのホワイトが可愛い。でも、たこ焼きプレートは必要ないし(たこアレルギー)、鉄板だけでいい。しかも1人用でいいとなると、結構タイプが限られてきます。
いろいろと悩んだ後、アイリスオーヤマの1人用ホットプレートに決めました。

続いてはレシピのチェックです。
【ホットプレート レシピ】で検索すると、たくさんのレシピがヒットしました。
『ホットプレートdeチーズダッカルビ』『ホットプレートで彩りビビンバ』『ホットプレートで簡単♪パエリア』『ホットプレートで包まない巨大餃子』…etc

家族みんなが笑顔でおどり出しそうな、ごきげんなメニューたち。そのネーミングとビジュアルから醸し出されるパーティー感は、ホットプレートがいかに楽しい食卓と笑顔を提供してくれるものなのかを表現しているように思え、想像しただけで、こころもおどります。


しかしながら私は考えました。
ホットプレート初心者にして、ウェイウェイするメニューはまだ早すぎるのではないか、と。
まずはホットプレートだからこそシンプルに楽しめそうな、基本の『焼く』から始めてみようではないか、と。


ありとあらゆる食材を…
目の前で焼きつくす…
ここは恐怖の館…

ヒーッヒッヒッヒッヒッヒッ。

ヒ?

Amazonで注文した翌日、早速コンパクトで可愛いホットプレートが届きました。いよいよ記念すべきデビュー日です。
私はこの日のために、数種類の野菜とエビ、ちょっとふんぱつしてステーキ用の牛肉を購入しました。

新品のホットプレートを箱から出して綺麗に洗い、テーブルにセットしました。電源を入れてからしばらく待って、上から手をかざすとピカピカに輝いているプレートが熱くなっている事がわかります。
まさに、ホ・ッ・ト・プ・レ・ー・ト。

食材、投下。

ジュ―。ジュワワワワワー。

ぱく。

ぱくぱく。

ジュ―。ジュワワワワワー。

ぱく。

ぱくぱく。

ジュ―。ジュワワワワー。

ぱく。

ぱくぱく。


ジュー・・・・・・・・・


違う 違う そうじゃ そうじゃない

私の中の鈴木雅之が勢いよく美声を発しました。


お皿にある食材をただひたすらホットプレートに乗せて焼き、静かに口に入れる。躍動的に焼かれる食材たちと対照的な、無言の繰り返しによってあぶりだされる孤独感。

エビはガーリックオイルにまみれながらピンク色に染まり、ピチピチとおどりながら焼かれていく。
けれども、こころはおどらない。

牛肉は旨味たっぷりの潤沢な脂にまみれながら香ばしく色づき、ジュワーっと勢い良く焼かれていく。
けれども、こころはおどらない。

私は悟りました。

ホットプレートとは、目の前で調理をしながらその過程を誰かと共有し、それによって生まれるコミュニケーションも含めて、こころがおどるような、うきうきした食卓になるのだと。

「これ、もう焼けてるんちゃう?」「これ、どうぞ先に食べて」「ほら、早く食べへんと焦げるで」「うわ、めっちゃおいしい」

こうなったらもう人形でも用意して、腹話術よろしくひとりごちたろうかと思うけど、それこそ恐怖の館まっしぐら。私はひたすらホットプレートで食材を焼き、無言でそれを食べ続けました。

ふと顔を上げると、テーブルの向かい側の椅子に座った猫が、ジッとこちらを見つめています。

誰かとホットプレートを囲みながら、こころおどる食卓を楽しみたい、そう強く思った夜でした。


#日記 , #エッセイ , #ホットプレート , #家食 , #孤食 , #ホットプレートレシピ , #パーティ感 , #調理家電 , #食事 , #アイリスオーヤマ


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