『きのう何食べた?』の世界
「きのう何食べた?」
「えー、きのう?えー、お昼はほらあれ、あれあれ」
「何?」
「えー、ほら、あれよあれ、あれ?何やっけ」
信じられない方もおられるでしょうが、ある程度歳を重ねてまいりますと、このような会話は日常茶飯事となります。
一種の記憶力バロメーターかもしれません、というそんな話をしたいわけではありません。
よしながふみさん原作の『きのう何食べた?』劇場版が11月3日から公開されました。
2007年に漫画の連載がスタートして、その後、深夜ドラマ、特番と姿を変えながら多くの人に愛されてきたこの作品は、恋人同士である男性2人の日常を、食卓を中心に描き出したストーリーです。
誰かと一緒に美味しいものを食べながら、「美味しいね」と言って過ごす時間が、とても貴重なものなんだと再認識した人も多い今の時代に、とてもぴったりな作品ではないかと感じます。
漫画連載時代からのファンとしては、公開初日に観に行かずしていつ行くのかと意気込んで、3日にTOHOシネマズへ行きました。
主演が西島秀俊さん、内野聖陽さんというだけあってか、劇場には女性の方が多いという印象ですが、年齢層も幅広く、グループだったり、カップルだったり、シングルだったりと、さまざまなフォーメーションで来場されています。
私は予約したチケットを発行した後、ウーロン茶とポップコーンを買うために列に並びました。劇場で観る時は何故か必ず買ってしまう必需品です。
席について、CMや予告編を観ながらその時を待つ。
扉が閉まり、非常灯と天井照明が消えて闇になる瞬間が、映画館ならではの高揚感を感じてとても好きです。
劇場版を観るにあたって、公式サイトにアップされている予告編を視聴しました。
予告編とはどの映画もよくできたもので、その映画を象徴するようなセリフやシーンがピックアップされ、それらが編集されて、映画の全体像をネタバレさせずに“観せて、魅せる”というとても高度なテクニックが使われている事がわかります。
いつも本編を見ながら、“ああ、ここに予告編のシーンが繋がるのか”“やっぱりそういう事だったのか”と1つ1つ答え合わせをするように納得できる事が多いのですが、今回は、若干自分が予想していたものとは違ったのが印象的です。
“あの表情ってこういうシチュエーションでの表情だったのか”と、ちょっと騙された感じもあり、それはそれで面白い体験でした。
きっと中江監督は、遊び心のあるお茶目な方なんだろうな。
笑いあり、涙あり、劇場に来ている人びとの感情のうねりが一体となって、例にもれず私も泣き笑い。
ハンカチが足元のカバンの奥に入れっぱなしで取り出せず、溢れた涙をマスクで押さえていたら、どうやら隣の人も涙をマスクで押さえているっぽい気配がして、変な一体感を感じました。
同志よ、ええやんな、マスクで涙拭ったってさ。
劇中には、美味しそうな料理がさりげなく日常に溶け込んで登場します。どれもこれも簡単で、誰でも作れそうなところが魅力で、毎日の食卓だけどちょっとした憧れを感じさせるいい塩梅の演出が、物語の骨格をしっかりと担っています。
映画のレシピ本を買って帰ろうと思っていましたが、売店の混み具合にノックアウトされました。またどこかで入手しよう。
これまで、凡人思考が故に、どうして2人の食卓を中心としたストーリーなのに『今日何食べる?』みたいなタイトルじゃないんだろうと思っていたのですが、劇場版を観て、1つの想いに至りました。
『きのう何食べた?』というタイトルには、2人の主人公を中心とした物語を通じて、この作品を観る全ての人に、自分たちの日常に重ね合わせて想いを寄せて欲しい、というメッセージが込められているのではないか、ということです。
『きのう何食べた?』というのは、観ている私たち一人ひとりへの問いではないでしょうか。
気付くのおっそ。
2人の生きづらさを通して感じるところも、10人10色でしょう。
TOHOシネマズのキャパシティは約730人。
その回の来場者数は、約8割程度だったので、そうすると約580人。
580人が580通りの、大切な人との日常の物語を思い描いたはずですし、私もその1人です。
この美味しい日常をいつまでも。
劇場版のキャッチコピーが、寸分違わず、この作品に対する作り手の想いとファンの想いを表現しているようです。
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