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3姉妹で両親の結婚50周年を祝うというのは、こういう事だったのか

私には姉が2人います。
長女が小学校6年生の頃、次女が4年生で私が1年生という年齢差です。
1学年1クラス20名前後の、もはや全校生徒が顔見知りという田舎の小さな小学校に、姉妹3人で通っていました。

私は長女が卒業する日、その短い人生で味わった事のない悲しみに暮れて、全身全霊で泣きました。全校生徒が集まった狭い体育館に響き渡る私の泣き声は、卒業生をも凌駕し、途中退席寸前だったと母から聞かされたのは大人になってからの事です。

式の後「aotenちゃん何がそんなに悲しいん?家で会えるやん」とぐうの音も出ない事実を冷静に言い放った長女と、「aotenちゃんが号泣するから同級生にからかわれたやん!恥ずかしい!」と顔を真っ赤にして怒る次女を前に、お姉ちゃんたちはどうして私の悲しい気持ちをわかってくれないんだと、さらに大号泣したのは今でもちょっとしたトラウマです。いや、トラウマは2人の方か。

いつも冷静で淡々としている長女、感情豊かな次女、そしてそのどちらも持ち合わせた自称スーパーバランス(崩してる)型三女。姉妹とは不思議なもので、同じ親から生まれ育ったのにも関わらず、こうも違う人間が出来上がるのかと驚きを隠せません。別の生産ライン通ってるんじゃないかな。

今現在2人とも結婚し素晴らしい旦那さんと子どもに恵まれ、幸せに暮らしています。次女は実家近くに住んでいますが、長女は海を渡ってしまい気軽に会える距離には住んでいないので、全員で顔を揃えて会うのは年に1度程度です。

さて事の発端は、確か夏にちょこっとだけ帰省した時の事でした。

「実は、今年結婚50周年なんやけど、aotenちゃん知ってた?」

お昼に食べたそうめんの片付けをしていたところ、ボソッと母が私にそう告げました。これまで親の結婚記念日なんて聞いた事もなかったし、それほど記念日を重視する家族でもなかったので、母が急にそれを言い出した事に心底驚きました。

「あそうなん?半世紀やん、すごいやん」

私はどういう感情で聞いたらいいのかわからず、とりあえず“半世紀“という言葉にすごい感を託し、サラッと返事をしました。

「そうなん。なんか、お母さんこれまであんまり気にしてなかったけど、50周年ってやっぱりちょっと節目やなって、この前お父さんと話してたん」

えっ、あの宇宙一記念日に興味のない父と?
しかも何かちょっと少女のような顔をするではないですか。

私はこれは思い入れが強そうだと察し、姉2人にLINEを送りました。

「今年結婚50周年らしいわ。何かお祝い渡そうと思うんやけどどうかな?」

早速長女からは、これ仕事の話やったかなと思うほど、きっちり前提条件を整理した上で、意思表示がありました。実際の購入手配を2人どちらかにお願いしてしまう事になるし、お金もしばらく立替えてもらわないといけないし(ネットバンクでの送金セキュリティが国際的に厳しいため)、しかも現時点でいつ帰国できるかわからないので長期間の立替になるかもしれない、それでもよければ参加したいです、といった内容のLINEでした。

次女からは、素敵!大賛成!何をあげる?50周年の記念だからメモリアルなものがいいのかな!?とウキウキ感あふれる内容のLINEが来ました。私はそのテンションがよからぬ方向に向きそうで若干不安を感じました。

スーパーバランス(崩してる)型三女からは、では満場一致で賛成という事であれば、何をあげるかはそれぞれアイデアを持ち寄り、方向性が決まった後に私が百貨店などで物を探しますねという提案をしました。

趣味や物欲があまりない両親なので、こういう時にプレゼントするものに困るなぁと全員が思っていたに違いありません。

それから数日後の事です。
次女からピロっとLINEが送られてきました。
私はそれを見て、ああ、やっぱりあの時感じた不安が的中したな、と思いました。

それは木製のフォトフレームのURLでした。
手作り感のある木製フォトフレームに、驚くほど大きくな文字で『感謝』と彫られています。


産んでくれてマジ感謝、育ててくれてマジ感謝、50周年マジ感謝。yeah!


いやもう感謝の主張が激しい!!

次女の LINEにはURLとともに、次のようなメッセージが興奮気味に書かれていました。

こんなのどうかな?こういう何かメモリアルなやつっていうの?私こっそり実家に帰ってお父さんとお母さんの結婚式の写真探してくるから、それを家族全員の写真と合成して入れたらどうかな?もちろんaotenちゃんの猫ちゃんも一緒にね!

マジ感謝フォトフレームだけでもお腹いっぱいなのに、そこにフレームインされる合成写真。おそらくセピア色であろう両親のウエディング姿を取り囲むようにして、国際色豊かな笑顔の家族たち&婆さん猫2匹。

シュルレアリズムのダリやマグリットもびっくり仰天、世紀の芸術作品いっちょ上がりです。

次女の優しさやその感情の豊かさに幾度となく助けられた身としては、ここは何とか傷つけずに、やんわりと違う方向へ誘導せねばなりません。


「もっと実用的なものがいいんじゃない?」

バッサー。

切れ味すごい!お姉様さすがです、その躊躇のなさ!

あああああーどうやってやんわり言おう…と頭を抱えて悩む私を、時差をも超えてヒュンと追い抜き、研ぎ澄まされた刃でマジ感謝フォトフレームを即刻却下する長女。同じ血が通っていると思えません。

「確かに!そうやんな〜!」

こだわりないんか!
あまりにもあっさりした次女の即答に、感情がジェットコースタのごとくアップダウンし、何故か傷ついて血みどろになる三女。危険やわ、この感じ。

ひとまず長女の一声で“実用的なもの“という方向性は決まったので、家具だの食器だの色々とお店を巡りながらその都度姉2人にLINEを送りました。
時に長女の刃に傷つきながら、時に次女のセンスを誘導しながら、結局毎日使えるちょっと高級な急須と湯呑みセットに落ち着きました。一周回った感すごい。

そして最後は花束とメッセージカードです。
花束にはとても大きくて力強いダリアの花を、父と母に見立てて2本選び、それを取り巻く家族といったコンセプトで様々な花をアレンジメントしてもらいました。家族の合成写真はどうかと提案した次女の魂を、私なりにここで昇華したつもりです。

カードには、3人からのメッセージという事で私が代筆せねばなりません。もうこれをいちいち議論するエネルギーは残っていないので、ドライな姉とウエットな次女の中間点を模索しながら、いい感じの湿度を保ったメッセージを書き、2人に合意を取りました。

プレゼントは、私1人が実家へ出向き渡す事になりました。話し合いの末、次女は子どもも多く仕事柄人との接触機会も多いので、念のため今回はやめておこうという事になったのです。

両親に手渡すと、2人は想像以上にとても喜んでくれました。特にメッセージカードを開いた時に一瞬だけ見せた父の表情は、これまで見たことのないものでした。

私はほころんだ顔で花束をもつ両親をスマホで撮影し、LINEで姉2人に任務完了の報告をしました。

ようやく長い戦いが終わったとそんな清々しさもありつつ、三女って何だか結局大変な役回りじゃないのと文句の1つも言いたい気持ちになったのですが、後日母から、いかに私が頑張ってくれたのかを2人が力説してたよと聞き、姉たちの優しさで胸がいっぱいになりました。

マジ感謝。

マジしんどかった。


#日記 , #エッセイ , #三姉妹 , #結婚記念日 , #家族 , #感謝 , #プレゼント













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