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六月終期/雨月日記

頭の上の雉は卵の殻を破って太陽を産む

六月終期 

 雨が降りかけている。いっそのこと景気良く降って欲しい気もするが、三時に外出するのでその時は止んでいて欲しい気もする。こういった僕のような勝手な願いには、天気の女神は愛想良くしてくれない。それが小さな少女のような神であるなら、幾ぶんか気紛れにしろ、僕の希望を聞き入れてくれるような思いもあることはある。ただそれを僕は見透かされて、余計に豊満な女神は機嫌を損ねるのだろう。だから三時にはきっと雨が降る。 

 頭の上で雉が鳴いている。通学路で子供が泣いている。庭先で少女が、新芽の雑草を摘んでいる。それらをいっしょくたにして、ぶつ切りにして焼いてやりたい気分になっているが、それが出来ずに僕は僕の吐瀉物を煮込んでいる。掻き回していると鍋の中が虹色に光ったところで、夢想は終わってしまった。それが果たして夢だったのかただの楽しげな空想だったのかは枕に頭をもたせてしまった今にはもう分からない。あごの下で腹が鳴る。 

 そろそろ時間だと枕辺で財布が言っている。さっきからは、雨戸を閉め切ってしまったので外の町に雨が降っているのかは僕には分からない。部屋を出たすぐの階段の手前にある出窓が、それまでの唯一のHintだが僕は目を瞑って玄関までの短い階段を下り、まったくその訳は分からないがいつも長過ぎると感じてしまう窓のない廊下を通り過ぎる。いったん外に出てしまえばそれは知らないふりをしていたものの答えのようなことだが、それは何となく分かっていた通りに、天空に美少女はいないということの証明に他ならないということなのではあるまいか。

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