おいしい以外は許されない世界
おいしいはたのしい、は、事実だ。
でも何か違うと思った俺たちが行なっていることは確かに犯罪だ。
しかしながらこの犯罪は重ねたくなるのだ。
何故なら最高のエンターテインメントだから。
【おいしい以外は許されない世界】
今日も俺たちは誰も好んでは足を踏み入れないような雑居ビルの地下に集まった。
全員揃ったところで、アガラは約束のブツをテーブルの上に置いた。
「くせぇ!」
たまらず鼻をつまんで叫び声を上げたミノルタ。
それを見て、アガラは笑いながら、
「ミノルタは本当にリアクションがいいな、私はミノルタのリアクションを想像しながらこのブツを作ったんだよ」
ミノルタは目に涙を浮かべながら、
「ちょっとぉー! クサいは反則だろ! 匂いにまで手を出すのはもうダメだろ!」
そう声を荒らげつつも、笑っているミノルタ。
勿論俺たちも笑っている。
これから起きるだろう苦難が楽しみすぎるからだ。
ミノルタが落ち着いたところで、アガラが喋りだした。
「これは酢・納豆・タバスコ・くさや・こしあん・薄荷・サイダーをミキサーで混ぜたジュースだ」
「「「いや不味すぎるだろ!」」」
俺もミノルタもYJもシンクロしてツッコんだ。
アガラはその俺たちのリアクションを見て、満足げに頷いた。
この世界には、不味いモノ禁止令が発令されている。
『おいしいはたのしい、不味いは悲しい』を合言葉に、不味いモノは徹底的に排除された。
だからこうやって、そもそも素材を手に入ることが庶民はできなくなった。
アガラのように不味い食べ物を作り出すかもしれないから。
俺たちが食すことができる食べ物は全て料理で、それもお店でしか食べることができない。
家庭内に料理を持ち込んでしまうと、密室でスープに土を混ぜるヤツがいるかもしれないから、ということらしい。
さすがに俺たちも土なんて食べないけどな。
「さぁ! 早速食べようぜ! というか今日は飲もうぜ!」
アガラはそう言いながら、全員分のコップにそのジュースを注いだ。
「「「「いただきます!」」」」
そして俺たちはそのジュースをゴクゴク飲み始めた。
ミノルタはすぐさま鼻を抑えたし、YJは咳き込むし、持ってきたアガラはすぐに口を離して笑うし。
俺はその光景を見ながらニコニコ飲んだ。
おいしいはたのしい、は、事実だ。
でもきっとそんなことはどうでもいいんだ。
みんなで食べるから、たのしいんだ。
みんなで囲むから、たのしいんだ。
別に不味くたって楽しい。
とりあえずまあ俺たちの仲は永遠ってことでいいだろうな。