系と外界,系の種類
まずは基礎イメージの準備から
熱力学のわかりにくさは,概念をイメージしにくいところにあると思います。理科では普通,主な関心が「分子・原子はどうなっているのか?」というミクロな世界に向かっています。ところが熱力学は分子・原子の存在が完全には信じられていない時代に作られました。そのため,実際に実験を行う際にどのような容器や装置を使って測定するか,といったマクロなイメージを持つことの方が大切ではないか,と思うのです。以下では,熱力学で基礎となる3つの概念とそのイメージを準備します。
系と外界
熱力学では,宇宙全体を境界線で区切って系と外界に分けます。宇宙全体,というのはなんとも唐突なのですが,やや誇張された表現だと思ってもらって構わないです。我々化学者にとっては,宇宙とは化学実験室全体のことである,と考えておきましょう。
さて今,実験室の中に,一つの容器があって,何らかの物質が入っていると想像してみます。このとき,容器内部を系,それ以外の実験室全体を外界と呼んで区別します。外界も空気などの物質で満たされていると考えましょう。
なぜこんなことをするのかというと,実は「変化」というのは容器の中身のことだけを考えていては理解できないのです。変化は実験室全体(あるいは宇宙全体)に影響を及ぼす出来事なのです。
変化は宇宙全体に痕跡を残す。
このことをしっかりと覚えておきましょう。
系の種類
系には孤立系,閉鎖系,開放系の3つの種類があります。孤立系はエネルギーを通さない断熱壁で覆われており,エネルギーと物質の両方共に外界とのやり取りが行われません。具体的には魔法瓶を考えると良いですね。ちなみに宇宙全体も,その外側には何もないのだから孤立系の仲間です。一方,閉鎖系は外界とエネルギーのやり取りのみが行われます。開放系は外界とエネルギーと物質の両方をやり取りできます。
一般に,熱力学の教科書では閉鎖系を取り扱うことが多いです。つまり,フタがあり,エネルギーを通す容器ですね。この容器には定積条件と定圧条件という2種類の条件が課せられます。定積条件とはフタがあり,容器の体積は変化しません。定圧条件はフタが移動できるようになっているため,容器内外の圧力差によって体積が変化します。ただし,この移動できるフタ(可動壁)は重さや摩擦を無視します。
高校化学では定圧条件を扱うのが普通です。さらに,定圧というのは大気圧下(1気圧)のことを指します。このことも忘れやすいので注意しておきましょう。
物理の教科書では,定圧条件の代表として,理想気体が入ったピストンがよく出てきます。ですがピストンはどうしても機械工学的なエンジンを連想してしまいます。私は化学が好きなので,今後はできるだけ,ビーカーの中に物質が入っている状況を考えたいです。
ビーカーに入った液体でも、液面を通じた物質の移動を無視すれば、圧力が一定のピストンと同じように考えることができます。もちろん,気体は大気圧の下で加熱すると体積が膨張します。また、液体や固体であっても、大気圧の下で加熱するとわずかですが体積が膨張するので、圧力一定の条件下における閉鎖系と考えることができます。つまり,一般的な化学実験では,物質は定圧条件の閉鎖系と見なすことができます。
まとめ
変化は宇宙全体に痕跡を残す。だから系と外界を区別する必要がある。
系は3種類あるが,まずは閉鎖系だけを考えれば良い。
普通の化学実験では,物質は定圧条件の閉鎖系と見なすことができる。
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