見出し画像

中2理科の化学反応式を【理解】する(14) 混合物と純物質

中2理科の教科書を読み進めています。

前回

まとめページ


化学変化と物質の質量

2 反応する物質の質量の割合

空気中で加熱すると、銅も酸素と結びついて酸化銅になり,質量が増える。

【問い】そのまま加熱を続けたら,生成する酸化銅の質量は増え続けるだろうか。

【予測】
1 銅原子に無限に酸素が結びつく。 
2 銅原子に結びつく酸素原子の数には限度がある。

【実験】空気中で銅粉を加熱し,その質量を測定する。

【結果】一定量の銅と反応する酸素の質量には,限界がある。


感覚的な見た目から思考による本質へ

 定性実験から定量実験へ関心を移す理由は、見た目の変化よりも、その奥にある本質を知りたいからです。本質とは、元素がどのように組み合わさって物質ができているのかということです。私たちは酸化銀が熱分解して酸素と銀に分かれることから話を始めました。

【熱分解】 酸化銀 → 銀 + 酸素

 このとき、分解して出てきた、もうこれ以上分解できない成分を元素と呼んだのでした。そして、この元素が組み合わさると全く違う性質を持つ物質ができるということも見てきました。その身近な例が金属の酸化反応でした。

【酸化】 銅 + 酸素 → 酸化銅

 生成物である酸化銅は黒色で電気も通さなくなり、もはや銅としての性質は全くなくなってしまいます。感覚的には、銅と酸化銅に共通点はありません。ところが、それを還元する実験によって再び銅に戻すことができることも確かめました。

【還元】 酸化銅 + 炭素 → 銅 + 二酸化炭素

 この実験から、やはり銅は酸化鉄に含まれていたのだと、思考によって判断されます。これが元素としての「銅」です。ここで、「銅」という物質名は2つの意味を持つようになります。一つは現実世界の銅、もう一つは元素としての銅で、後者は感覚を超えたところにあります。

 私たちは日常生活で視覚や聴覚、味覚や触覚などの感覚を使って物事を判断していますので、感覚を使わず思考を使うという習慣があまりありません。

 成分とか元素といった言葉の意味は、思考によって把握されます。これが結構難しいので、中学校では元素を球状の物体として視覚的にイメージ化し、それを原子と呼びました。化学変化とは、性質が全く違う「別の物質」への変化なのですが、それを原子の組み替えというイメージ操作と関連付けします。

混合物のイメージ

 しかし今までは、どうして物質の根本的な変化を原子の組み替えであると言えるのか、その理由がはっきりしていませんでした。ここで、中1で学んだ「状態変化」や「水溶液」でも同じ考え方をしていたことを思い出します。

 状態変化では,氷、水、水蒸気という、見た目は全く異なる物質の奥に共通する、何かの実体を想定します。これが思考によって把握される,物質名としての「水」です。この3種類の物質は共通の実体で結ばれており,それをイメージ化したものが「水の粒子」とその集合体からなる粒子概念だったのです。

状態変化と粒子概念

 一方,水溶液では水に溶けて見えなくなった食塩を,「水の粒子」の中に散らばった「食塩の粒子」としてイメージします。これが「混合物」のイメージです。

混合物の粒子イメージ

 もし両者を物質名反応式として表現するなら,以下のように表すことができます。

【状態変化】 氷(固体) → 水(液体) → 水蒸気(気体)

【溶解】 水(液体) + 食塩(固体) → 食塩水(水溶液)

 溶解と同様に考えると,酸化銅も銅と酸素の「粒子」が混ざった混合物としてイメージすることもできそうです。すると,次のような予測が考えられます。

【予測1】 銅原子に無限に酸素が結びつく。 
【予測2】 銅原子に結びつく酸素原子の数には限度がある。

新たな考え方を生む実験

 物質の色は数値で表すことが難しいですが、物質の質量は数値で表すことができます。中学理科では、原子に種類を持たせ、その種類を元素と呼びます。教科書では原子の種類を色分けで示していますが、その色は質量の違いを表しています。

 原子に質量のみを与えた理由は、現実世界とのつながりを作るためです。質量測定実験は、原子と現実世界を結びつける唯一の方法なのです。

 実験の予測は選択肢が狭い方が望ましく,どちらの結果になったとしても何らかの結論が出るように計画します。もし予想1が正しければ、酸化銅は混合物であると言えます。一方、予想2が正しければ混合物のイメージは否定され、新しい考え方が必要になります。実験の結果は予想2でした。

 このように、これまでの考え方を否定する形になると、新たな概念を生み出すきっかけとなります。もし酸化銅が混合物でないのなら、それを【純物質】と名付けて区別しましょう。こうして私たちの知識がまた一つ広がっていくのです。

見えない世界の探究に向けて

 小学校の理科でも結果の予想は行なっていましたが、やはり実験から何かを学ぶという姿勢で,帰納的に知識を得ていたと思います。しかし,定量的な予測ができる化学反応式の登場によって、理科実験の意味が変わりました。

 これまでとは異なり,今回の銅の酸化実験では、原子や分子といった見えない世界の探究を目的としています。見えない世界の探究には,もはや感覚は使えません。その代わり,量の測定による間接的な形で見えない世界と見える世界の間につながりを作るのです。

 もし量が予測と一致すれば,私たちの考えが正しいことになります。一方,もし一致しなければ,私たちの考え方の変更を迫られます。「私の理解は違っていたかもしれない」と思わせてくれる実験こそ,良い実験です。実験は予測通りにいかないほうがエキサイティングなのです。

次のお話はこちら


参考↓


この記事が参加している募集

理科がすき

化学がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?