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中2理科の化学反応式を【理解】する(15) 定比例の法則

さあ,理科の教科書を読む作業は今回で終わりです。

前回のおはなし

まとめページ↓


化学変化と物質の質量

2 反応する物質の質量の割合

銅と酸化銅の生成比を調べる実験

【目的】 銅の質量変化に規則性があるか調べる。
【予測】 銅と酸素が反応する割合は決まっている。
【計画】 反応する銅の量を変えて,酸化銅の量を比べてみる。
【実験】 銅粉の質量を変えて加熱し,生成した酸化銅の質量を記録してグラフを作る。
【結果】 酸化銅の質量は銅の質量に比例する。
     反応した酸素の量は銅の質量に比例する。
     反応する銅と酸素の質量比は4:1になる。
【考察】 銅 + 酸素 → 酸化銅
     $${Cu + O_2 → 2CuO}$$
【結論】
どちらか一方の物質の量が多くても、相手の物質が少なければ反応が進まない。
多いほうの物質は、反応せずにそのまま残る。


理想と現実のギャップ

 銅の酸化実験は結構難しいと言われています。教科書には新品同様のステンレスの皿や銅粉が使われているのですが,学校現場では必ずしも毎年,新品を揃えられるわけではありません。ステンレス皿の汚れや水分,銅粉の純度,銅粉の粒度,加熱温度による影響といった様々な条件が実験に影響してきます。

 まず,純粋な銅粉を用意しなければなりません。購入してから時間が経っている銅粉は空気酸化により粒子表面が酸化銅に変わっています。次にガスバーナーで十分加熱しますが,$${CuO}$$が生成する加熱温度範囲は300℃以上1000℃以下で,それ以外の場合は$${Cu_2O}$$が生成してしまいます。加熱した後の試料は十分冷ましてから質量を測定します。

 これらの実験操作が意味するものは,化学反応の矢印「→」の前後における物質は変化しない状態(平衡状態)であること,同じ温度であること,そして反応物・生成物ともに純物質でなければならない,ということだと思います。また,化学反応式では矢印「→」の部分にあたる加熱時間や加熱温度などについても気をつけなければなりません。

 化学反応式は理科における初めての「理論」です。理論とは心の中で仮説を作り出し,それを実験結果と比較することによって深い理解に到達しようとする試みでもあります。感覚では到底捉えることができない化学変化を,理想的な世界における原子の組み替えとして解釈し,その予測を実験と比較することです。

 言い換えると原子の組み替え作業は心の中の理想的な世界ーー変化しない永遠の世界ーーで行うことであり,現実との間には様々なギャップがあります。実験は,理想の世界に現実を近づける努力です。様々な要因を取り除いたとき,初めて理想的な条件をみつけることができます。それが規則性の発見です。

定比例の法則

 規則性とは「酸化銅に含まれる銅と酸素の質量比は常に一定である。」というものです。これを一般に定比例の法則(一定組成の法則)と呼んでいます。

 定比例の法則は原子の相対的な質量比(原子量につながる量)を実験によって計算するために,その前提となる重要な法則です。歴史的には,原子の発見の前に法則の発見がありました。現代の教育では,まず原子を想像させてから,その存在を実験によって証明するという流れにしているようです。

変化の中に変化しない量を見つける

 法則の発見とは,「変化の中にあって変化しない量」を見つけることです。前回の実験で,銅と結びつく酸素の量は,加熱するにつれて変化しなくなる,と確かめました。グラフにすると以下のようになります。

銅の加熱実験の結果

 結構,手間がかかる実験です。加熱の回数が3回目あたりから,加熱後の物質の重量は変化しなくなります。実は1,2回目のデータは銅の酸化が不十分なため銅と酸化銅の混合物の重量を示しています。そのため,このデータを後で使うことはありません。

 重量変化しなくなった後の3〜6回目のデータは酸化銅$${CuO}$$のみからなると考えられます。これを純物質と呼びます。この時,加熱温度などの管理がうまくいかない場合は$${Cu_2O}$$との混合物ができてしまいますので,それを避けなければなりません。

 得られた酸化銅の重量から,もとの銅の重量を引けば,銅に結びついた酸素の重量を計算できます。以上の実験を繰り返すと,以下のようなグラフが得られます。

定比例の法則

 全ての数値データは「変化しない量」から成り立っています。これらの数値データをグラフとして表した時,その形は直線であった・・・つまり中1で学んだ1次関数であることがわかります。これはすごく重要なことであると覚えておきましょう。

 銅も酸素も,その質量は増えているのですが,銅と酸素の質量比だけは4:1のまま変化せず,常に一定なのです。中1の数学ではこのことを比例の関係といい,$${y = ax}$$という数式で表現します。この「変化しない数=定数$${a}$$」を直線の傾きと言うのでしたね。

相対質量比から原子量へ

 他の金属でも同様の実験を行うと,いろいろな金属と酸素の質量比がわかります。例えば,マグネシウムと酸素の質量比は3:2になります。もし酸素の質量を基準にとれば,銅とマグネシウムの酸素に対する相対的な質量,つまり相対質量比という量が計算できます。他の元素についても同様な実験をたくさん行えば,様々な元素の相対質量比がわかります。

$${Cu : O : Mg = 8 : 2 : 3}$$

 酸素の代わりに炭素を基準とした相対質量比を,原子量と呼んでいます。現代では,原子量を知るためにたくさんの実験を行う必要はありません。その正確な値は元素の周期表に載っており,その値を使えば,どのような化学反応であっても,その生成物の量を正確に予測することができるのです。

 こうなると,もはや原子は想像上の存在ではなくなります。化学変化による物質の根本的な性質の変化は原子の組み替えで理解できます。原子という理想の世界を探求するためには,現実をそのまま受け入れるのではなく,現実を操作して理想の世界に近づける必要がある。それが実験ということなのかなと思いました。

お話は,まだまだ続きます↓


参考文献

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