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旅をする気


アフリカ縦断やナイル川のことなど、これまで書き途中のまま放置しているnoteが多々あるけど、一旦それは置いといて最近のことを徒然と。



詳細は端折るが、紆余曲折あり僕は今カナダに住んでいる。


カナディアンロッキー


コロナによる海外渡航規制も撤廃され、日本もようやく海外への扉が開き始めた今年。ここ数年の定住生活に痺れを切らし疼き始めていた放浪欲を満たす為、勢いのまま渡航。

遠征を除けば久々の海外。それも日本での仕事をぶん投げて、無職という清々しい身分での旅行。




自由の風に吹かれている。




気持ち良い。




これからの旅行資金を貯める為の出稼ぎを兼ねて、しばしここカナダに定住。今はユーコン準州というアラスカのすぐ隣、カナダの僻地に家を借りて小さな生活を営んでいる。この辺境の町で仕事を見つけたので、半年ほど働く予定である。


ユーコンの山々


ここに辿り着いたのは8月初旬。到着早々10日間ほどユーコン川をカヌーで下った。ユーコンの夏は本当に爽やかで、ドデカい自然の中にもかかわらず、どこか穏やかで瑞々しい和らかな空気に包まれていた。

ユーコン川の悠々とした流れ。昼間カヌーの上で寝そべる僕の上を時折ハクトウワシが飛んでいく。昼飯を食べようと着岸すると、ムースかエルクか、動物の足跡があることにも特段驚かない。朝起きてキャンプの対岸を見るとクマと目が合ったり。

人間が彼らと同じく平等に自然の一部なのだと悟らせてくれる。そんな場所だ。


ユーコン川下りの一コマ



今読んでいる星野道夫の『旅をする木』に

「ぼくが東京で暮らしている同じ瞬間に、同じ日本でヒグマが日々を生き、呼吸をしている……確実にこの今、どこかの山で、一頭のヒグマが倒木を乗り越えながら力強く進んでいる……」

とあるが、まさに僕もそんなことを考えていた。自分以外のものにも等しく同じ時間が流れているのだと。



しかしこの北国のそんな美しい夏は短く、9月にもなるとポプラやシラカバの木は黄色く色づき始め秋が来た。野生のベリーが熟し、松の小枝を咥えたアカリスたちが越冬に向けせっせと森の中を走っていた。

秋は夏よりさらに短く、黄葉は瞬く間に散り、10月には初雪、そして気温は氷点下まで下がってきた。もうすぐ厳しく長い冬がやってくる。


まだこの町に住み始めて3ヶ月ほどだが、3ヶ月もすると少しずつ知り合いが増えてきて、ホームパーティーに呼ばれたり、カーリングの試合観戦に誘われたりと、様々な繋がりが生まれてきている。人口が少なく娯楽に乏しい小さな町だから尚更だ。これがただの旅行とは違って、「住む」ということの良い点であるのだが、どうもそこにどっぷりと浸かりきれない自分がいるのも同時に感じてしまう。理由はシンプルで「この町をいつか出ていく」からだ。


ある夜のオーロラと星たち



『旅をする木』で星野道夫は

「この土地を旅する中で、さまざまな人々に出会いながら、いつしかぼくは"おまえはどこで生きてゆこうとしているのか"と自分自身に問われ始めていた」

そして自分でアラスカに土地を買い家を建て、根を下ろすことを決めたことで、

「この土地にずっと暮らしてゆこうと思い始めてから、自分を取りまく自然への見方が少しずつ変わってきた。それまでのアラスカの自然は、どこかで切符を買い、壮大な映画を見にきていたような遠い自然だったのかもしれない。でも、今は少し違う。たとえば、自分自身の短い一生と、原野で出会うオオカミの生命が、どこかで触れ合っている。それは野生動物にとどまらず、この土地に生きる人々との関わりでも同じだった。」

と書いている。

最近こんなことを考えるようになったのは、ここに永住しないのか?という周りの言葉が所々であったからだ。今までの海外生活然り、結局自分はその土地ではヨソ者で外国人だという認識のもと適当に暮らしていたが、永住という2文字がチラつき始めてから、ここでの人生を想像したりする。一生浮き草のような人生も良いが、どこかで根を下ろした生活も、もしかしたら悪くないのかもしれない。


星野道夫は15年のアラスカ生活を経て、家を建て決めたらしい。それに比べれば僕はまだまだ。まだまだ客として切符を買い、良い映画を見ている気分だ。

行きつけの店でコーヒーをテイクアウトして、ユーコン川沿いを歩きながら晩秋の心地よい寒さを感じている。これもその映画のワンシーンに思えてくる。

これからやってくる長い冬の間ゆっくり考えればいいか。この地に永住するかどうか、これからの人生で何回か出くわす分岐点の一つなのだろう。分岐をどちらに進もうと、どの選択肢にもそれぞれのストーリーがある。




「結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。」

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