表面張力

自分で電気を切ったのに、もう生活はおしまい、意識がパッと途切れるような、そんな新鮮な驚きがあって、暗闇にはなんにもないと思った。
生活が敵だなんてどうして思っただろう。


テレビの音をBGMにする人間にはならない。
そう決めたから無音の中で、水道水の流れる音で調理する。
流して、溜めて、飲んで、捨てて、洗って、コップの表面張力を眺める。


私は何も知らない、生活がない国のこと。
空気を撫でる銃弾が踊りながら体にたどり着くこと。
バレット・バレエ。
爆撃が唄ってるから音楽は鳴らさない。みんなの唄を唄う。
盛り上がった水の表面と、ちょうどおんなじ気持ち、丸み、決壊を含んだ丸み。
死体は涙を流さない。生活に染み込む、水。


かみさま、わたしがいまこのへやで踊っているの、見ていてくれました?
音楽が鳴ると、体のあわがはじけて、踊っている、踊らされている。
踊ってほしくて、世界に。
この振動が地盤をゆるがし地震を起こすのですね。
手のひらが空気を撫でるだけで踊りになるんだから、撫でて、私を、世界も。


優しい共同体に呑み込まれて輪郭を失った、あなたと私は同じ顔で、まいにち鏡に向き合うように微笑み合って、何があっても失わない。でも表面張力に最後の一滴があるように、ある日、個人がやってきて、僅かなひずみで飛び散ってしまうのかもしれない。個人になりたい、本当は。

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