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短篇「君を見つけてしまった」4/8
⁑ 4 ⁑
僕らは頬杖をついて通行人や車が通り過ぎるのを並んで眺めた。
「あ、あの車」「なに」「いいなと思って」「いいね」なんて言いながら眺めた。
「君、地元の人なんだね。ここは昔からの行きつけ?」
「もちろんそうよ」
「大学の近くに家があるなんていいね。アパート代もかからないしさ」
「そうね、ずっとここにいるの私。だって、父と母がこの土地の下に埋まっているから、ここを離れるわけにはいかないの」
「埋まってるって、ご両親亡くなってるの?」
僕は驚いて、あるいはどこか他の子と違うのはそのせいだったのか、と瞬間的に納得したりして聞き返した。
「ええ、父は銀行家で母は詩人だったの。父と母のこと話すね」
ある日、父が職場で倒れた。
病院からとても重篤だと連絡が入ったの。だから死ぬのなら父が死ぬのが順当だった。なのに祖父に連れられて病院へ行ってみると、寝台に横たわって冷たくなっていたのは一足先に駆けつけていた母だった。
急な心臓発作だったらしいの。それから数日後、今度は脳出血を起こしていた父が後を追うように逝ってしまった。変わったはなしよね。
それで私は祖父母に育てられてここにずっと住んでるってわけ。
寂しくないかって?
いいえ、だって父と母の遺体は家の敷地の庭に埋葬してあるもの。
この土地の下に眠っているわけだからここにいる限り父と母がそばにいるのと同じなの。だからこの町の大学に通っているの。この町はきらい?
「いや好きだよ。だからここの大学に来ているわけなんだけど」
「そう、よかった。一人でも多くの人がこの町を好きだったら父も母も喜ぶ。土の下でね」
僕は両親が眠っているという彼女の家の庭をかってに想像してみた。うまく想像できているような気もしたけれど自信はなかった。
外に出ると、雪はちらついていなかったけれど、季節は冬なのだと肌で感じられた。心細さと温かさが胸を騒がせながら満ちてくる。
彼女が赤い手袋を取り出したので、代わりに自転車を押した。
「ここでいいわ」と言ったのは、先日バスから見かけたあたりの曲がり角で、その小道はとても暗かった。
「家まで送るよ」っと申し出たが、「ここから先は坂道よ、びゅーんと行くから大丈夫」と自転車に乗った。
「気をつけろよ」って声をかけると顔だけこちらに向けて頷いて、そうして向き直ると肩を怒らせてこぎ出していった。
彼女の自転車が暗闇の中に猛スピードで下ってゆくので僕は心底ひやりとした。でもどうしようもない。彼女には彼女のやり方があるのだ。
それにしても僕は大学近くにこんな坂道があることを今まで知らなかった。真っ暗なのだけれど薄明かりがところどころに灯っていて、それがかえって寂しさを誘う道だった。
つづく
⁂トナカイたちの鈴の音が聞こえますか?聞こえたら、それは幸せな証拠ですね🎄次回につづきます。
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