晩夏

はじめて夏とめぐり会い
はじめてのひと夏を生きた
ある一本の木の中の
その若い一本の枝に

まだ少し細いその枝に
ようやくはじめて
いっぴきのせみがとまる時

枝は緊張しています
せみの爪が
枝の肌にくい込んで
枝はそのいたみに
歯をくいしばりながら

そしてこのひと夏
ずっとほかの枝から
聴こえてきた
あの
せみの鳴き声を待ちました
あのこどう、あのふるえ
あの強さと弱さ
あの生命いのちのうたを

けれどそのせみは
いつまでたっても
鳴きませんでした

枝の期待を
裏切ったことに気付いた
そのせみは
そして申し訳なさそうに
こう言いました

わたしは、鳴かないのです
わたしは鳴かない
せみなのです


夏の終わりは
あなたといたい
あなたとふたりで
いたかった

ただそれだけでよかった
夏の終わりはいつも
あなたと、いたかった

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