(詩)せみの輪廻

幼虫のままで
終わったせみの
ひと夏の記憶は

留まらなかった木の緑の
飛ばなかった空の青さの
歌わなかった背中の羽根の
憧れの記憶

アスファルトの
灼熱の上で死んでいった
せみの幼虫のほおに
風が吹いて
やがて夕立が
幼虫を
何処へともなく洗い流し

失われたひと夏の
幼虫のせみの記憶も
大地へと
帰っていった


永い永い歳月をかけ
土の中で眠り続ける
幼虫は

夢見ている
深い深い土の中で
雪が降りしきる冬の中で

木の緑と
空の青さと
背中の羽根と
夏の風と雨のにおいを
夢見ている

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