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東京タワー

いつも週末の夜
東京タワーにやってきて
自分の生まれた国の方角を
じっと見つめる少女がいた

地図も地球儀もTVもない
生まれた故郷の家では
今も家族が寄り添いあい
静かな夜を過ごしている

彼女はいつも
手紙に書く
「東京には
 東京タワーという
 高い塔があって
 そこから世界中が見渡せるの
 そうよ
 みんなの顔もちゃんと見える
 だから心配しないで
 いつもちゃんと
 わたしが見ているから」

少女が一心に見つめる
遠い夜の光の彼方
そこに確かにひとつの家があり
いつも
少女の帰りを待っている

何千万の都会の家の光
夜の海、浮かぶ島々
そのまた遥か彼方
確かにひとつの家の光が
またたいていて

少女の小さな肩を抱き寄せる
少女の涙を包み込む

週末の夜
東京タワーの片隅で
ひとりの少女が泣いている

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