地動説

(※ちょい長めです)

この星が
回っているということ

朝ぼくが目を覚まし
夜またぼくが
眠りにつくということ
その平凡な
日常の繰り返しの中で

またいつかぼくは去り
またいつかぼくは生まれ
またいつかきみと別れ
またいつかきみと巡り会う
その永い永い歳月の中で

この星が
回っているということ

晴れていた空が曇り
雨が降り始めること
雨が上がり
また空が晴れること
そんな繰り返しの中でも
時には空に虹もかかり
生命は生まれ
そして
ある晴れた夏の日の午後に

いっぴきの蝶が一輪の花に
そっとやさしくとまること
蝶の羽根はやがて落葉に変わり
花は枯れ雪の下に眠る

それでもこの星は
回っているということ

さっきそこにいた野良猫が
風に吹かれ
どこかへ行ってしまうこと
けれどまた風に吹かれ
ふらりと
どこからかやってくること

親の面倒をみるために
結婚などしないと
言っていたひとり娘が
誰かを好きになってしまうこと

それでもこの星が
回っているということ

誰かが好きだった海へも
行かなくなったり
好きだったうたを
唄わなくなったりすること

夢を忘れ
平凡なおとなになったりすること

そのよろこび、かなしみ、
にくしみ、ざんげ、
こうかい、やさしさ

そのうちに
あと数十年もたてばすべて消え
失われゆく
それらせつな、せつなの現象を
大切にのせて今も

この星が
回っているということ

少年時代ぼくに
この星が回っていることを
教えてくれた人は
たくさんいたけれど
それはそう教科書に書かれていて
だれもが学校や本を読んで
そんなふうに勉強したからで

けれどぼくたちも
いっしょに回っていると
気付いていた人は誰もいなかった

みんな忙し過ぎたから
生きてゆくことで
精一杯だったから

ほんとうはだれも
ほんとうはね
この星が回っているなんて
だあれも、信じていなかった

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