(詩)追いかけっこ

春の海で遊んだね
きらきらと光る波を追いかけ
まだ冷たい海の水に
恐る恐る足を入れ

波と追いかけっこしたね
子どものように
少女のように
はしゃぐきみの笑い声が
まぶしくて

海の波がきらめくのは
きみが笑うからなんじゃ
ないかって思ったくらいさ

そんな若かりし
ぼくたちの日々

息を切らして追いかけっこ
ただのかけっこなら
きみに追いつけるから
きみもぼくに追いついて

腕をまわし
背中をつかまえ
思い切りぎゅっと
抱き締め合ったね
絡めた指のぬくもりが
やがてほどけてしまうなんて
夢にも思わずに

そんなふたりにも
追いつけない
追いかけっこがあった

人生の追いかけっこ
時間との追いかけっこ
きらめく時の波の中で
きらめいては消えてゆく
時のはざまに

きらきらと
笑い声と笑い顔を残して
けれど人は
時の流れには
追いつけないから
いつか
ぼくに置いてけぼりにされて
泣き出すきみの涙が辛くて

だからやがて
きみを残して
ぼくが時の海の波間を
ひとりぼっちで渡る時
その時

ぼくはきみのあの
まぶしい春の微笑みだけを
持ってゆくよ

だからきみも
ぼくがいなくなったなんて
信じないで

まだ追いかけっこの
途中だと思って下さい
ぼくなら
いたずらっぽい少年の顔で
まだ東京の人込みのどこかに
隠れていると


ずっと鬼のままで
きみを追いかけていたかった
ぼくたちの追いかけっこ

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